12年かけて伝わった、原爆ドームの場面

 物語の後半、神名とハセオは広島を訪れる。千早が原作を書く際、最も恐れたのは、多くの死を記憶する原爆ドームを、神名が「美しい」と感じる場面だった。

千早 たくさんの人が亡くなった建物を見て、美しいと言っていいのか。それが自分のモラルに触れる、いちばん怖いところでした。でも、神名なら美しいと感じるはずで、その感覚を読者が納得できるところまで持っていけるかどうかが、『男ともだち』を書いたときの私の課題でした。映画では、その一番大事なところを拾ってもらえたように感じられて、とてもうれしかったです。

映画『男ともだち』©2026『男ともだち』製作委員会

三島 世界のあちこちで悲惨な戦争が続いています。そんなときに、広島の原爆ドームを美しいと言っていいのか。場面を変えることも必要なのではないかと、スタッフと何度も話し合いました。

 でも、原爆ドームを何度も見に行くうちに、街をここまで復興させ、ドームを残し、目を逸らさず、今も祈り続けている広島の人たちがいるから、この場所は美しいのだとも感じたのです。そこで、ドームを含めての街全体そして通勤や登下校の途中に手を合わせるみなさんの姿も撮影して入れ込むことに決めました。ドームが美しく見えるのは、今この街で生きて、祈りを捧げる人たちがいるからだと伝えたいと思いました。

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映画『男ともだち』©2026『男ともだち』製作委員会

千早 映画を観て、きれいな朝の光の中に、広島で日常を生きる人たちの姿が入っていることが本当にうれしかったです。小説を書いたときには、読者からほとんど反応のなかったところなのですが、映画ではこういう形で立ち上がるんだと。12年かけて伝わったような気がしました。

この映画を作ることで救われた

千早 いつもは作品を書き終えると、「もう抱えていなくていい」と次へ進んでしまうのですが、この映画には、私が残しておきたかった感情の結晶のようなものが散りばめられていた。何者でもなかった私の20代も、救われた気がしました。

映画『男ともだち』©2026『男ともだち』製作委員会

三島 千早さんの小説の魅力の一つは、醜いものが美しくなっていくところだと思っています。神名にも、ほかの登場人物にも醜いところがあります。でも、観終えたときには美しく見える。千早さんが「救われた」とおっしゃってくださったけれど、私もこの映画をつくることで救われました。映画でしかできない表現で醜さから美しさへの変化を拾いながら、共に神名の人生を生きて新しい絵(映画)を描けたからかもしれません。