『凍りつく夏』(伏尾美紀 著)

 茫洋たる北の大地。人知れず続いていた行方不明事件を追う刑事たちがたどり着くのは、幾重にも重なる闇。その先には予想を覆す結末が待っていた。

 北海道警察捜査一課の志藤翔刑事が私的な旅に出たことから、第一の事件は動き始める。荒れる日本海沿いのオロロンラインを進み、ホワイトアウト寸前にたどり着いた一軒の食堂。ところが、そこが殺人事件の現場だった。稚内中央署の女性刑事・中谷凜が捜査を担当し、志藤と二人で謎を解いて一件落着……、かと思えば、その先にはまったく別の事件が待ち受けている。捜査の過程を丹念に追う物語だけに、登場人物はやや多い。どこに力点を置いて読めばいいのか、正直、このあたりで迷いかけた。だが、それは読み手としての自分が甘かった。仕掛けの在りかも見えない。何気なく読み飛ばした場面が、後になって意味を持って立ち上がるから油断できない。しかも、それは私の脳にしっかりとピン刺しされていたのである。巧みな書き手と言うほかない。

   最終章に向けて張られた伏線が回収されていく過程は、なるほどと気持ちがいい。意外な人物との対決へと進む。ここからは思いもよらぬ展開が続き、やがて物語の全体像が姿を現す。それは「凍りつく夏」という逆説的な題名にふさわしい。読み終えれば、冒頭から読み返し、ちりばめられた仕掛けを確かめたくなる実に濃厚な小説である。

ADVERTISEMENT

   派手な刑事ドラマとは違い、現実の捜査とは地道な聞き込みと繊細な聞き取りの繰り返しだ。手掛かりを求め、単調でつらい日々が続く。そんなときの刑事の胸の内、言葉の駆け引き、聞き取りの勘どころが、リアルに描かれている。長年、事件記者をやってきた私にも、このあたりはまったく違和感なく読めた。

 北海道の描写もすばらしい。道警の刑事の背中を追って、その土地を歩き、何かを調べ続けているかのようだ。ホワイトアウト時の孤独と恐ろしさ、街と街との距離感まで伝わってくる。現地を知る人でなければ、なかなか書けないと思う。抜海(ばっかい)、猿払(さるふつ)、羽幌(はぼろ)、増毛(ましけ)……。急速に過疎が進んでいく土地も多く登場する。土地勘のない人にとっても、冒頭の地図や主な登場人物一覧を参照しながらの新鮮な旅になるだろう。

 蛇足ながら、私は北海道と縁が深く、隅々まで回っているつもりなので、うなずける場面も多かった。捜査現場の一つとなる増毛町で、先輩刑事が映画『駅 STATION』を語り始める場面には、思わずニヤリとした。映画で高倉健が演じたのは、北海道警察の刑事だったからだ。

 広大な土地で人を探し、事件を追い、謎を解く。そんな捜査の旅に同行したい人には、ぴったりの一冊だ。私自身もページをめくるうち、この冬、スタッドレスタイヤを履いた車で日本海沿いのオロロンラインへ足を向けたくなった。

ふしおみき/1967年北海道生まれ、北海道在住。2021年『北緯43度のコールドケース』で江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。 25年刊行の『百年の時効』で大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞受賞。いま最も注目を集める警察小説の書き手のひとり。

しみずきよし/東京都出身。ジャーナリスト。北関東連続幼女誘拐事件をNHKと共同取材した「未解決事件」が放送され話題に。

凍りつく夏

伏尾 美紀

小学館

2026年10月15日 発売