労働者階級を演じられる役者がいなくなっている

ブレイディ イギリスでは、緊縮財政を推し進めた保守党のデーヴィッド・キャメロン政権(2010年~2016年)以降、文化のための予算がカットされ続けてきました。たとえば子どもが音楽やスポーツをやりたくても、貧しい家庭の保護者はなかなかお金を出してあげられません。だから学校や公共施設が重要になってくるんですけど、最近はこうした施設がどんどん閉鎖に追い込まれています。私の家の近くの図書館も、数年前に閉鎖されました。

 イギリス映画界では今、労働者階級をうまく演じられる役者がいないと言われているんですよ。名門大学出身の役者が増えたため、彼らには労働者階級特有の英語の発音や物腰は表現できないって。

内田 そうした現状に、人々の危機感は高まっていますか。

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ブレイディ はい。私が一つ注目しているのは、今年7月に労働党のアンディ・バーナムが首相に就任したことです。彼は地方への財政の権限移譲を進めようとしている。

 

 現在の制度では、私たちは税金のほとんどを中央政府に納めていて、その一部が政府から地方自治体に拠出されているんですが、彼は国税と地方税の比率を変えようと言っている。地方税の比率が上がれば、自治体は自分たちで集めた税金を自分たちのために使えます。そうすれば、図書館などへの支出を増やせる可能性が出てきます。

社会を変えた女性たちによるストライキ

内田 もちろん選挙で政治家を選ぶのも大事なんですけど、社会を変えていく方法は他にもありますよね。大きなヒントになると私が思ったのが、『それはどこでも起こり得る』に登場する「女性の休日」なんです。1975年にアイスランドの女性たちが起こしたゼネラル・ストライキですね。去年、日本でもドキュメンタリー映画が公開され、話題になりました。

ブレイディ 丸一日、仕事や家事や育児を放棄することで、女性たちの力がなければ社会が回っていかないことを示したんです。このストライキに、アイスランドの女性のなんと9割が参加しました。

内田 私は去年、思いがけない場所で「女性の休日」のエピソードを聞くことができました。娘がフランスのカルティエの社会貢献部ウーマンズ・イニシアティブでインターンとして働いていて、同社も参加した大阪・関西万博のウーマンズ パビリオンを手伝いに来ていたんですね。そこにアイスランドのクリストルン・フロスタドッティル首相がゲストでいらっしゃって、自分のお母さんが「女性の休日」に参加したときのことをお話しされたんです。「あの日があったから女性の私が首相になれた」って顔を紅潮させながら熱弁をふるっていらっしゃって、すごく感動的でした。