〈苦痛の緩和ではなく「死の権利」なら安楽死も認めて欲しい。望まないのにこんな体で無理やり生かされているのは人権の侵害だと考えます〉
51歳で亡くなったALS患者、林優里さんがTwitter(今のX)に残した言葉。ALS=筋萎縮性側索硬化症は、神経の障害により全身の筋肉が衰えていく病気だ。生活のすべての場面で介助が必要になり、死に至る。全国で1万人近い患者がいるが、自力で言葉を出せないこともあって、その意思が知られることはほとんどない。和歌山毒物カレー事件を改めて検証し話題を呼んだ『マミー』の二村真弘監督が、ALSの患者はなぜ死を望んだのか、その意志を阻んだのは何なのかを描き、医師による嘱託殺人と騒がれた事件の実相に迫る。
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「優生思想の殺人鬼」なのだろうか?
事件が起きたのは2019年11月。京都市に住む林優里さんはALSが進行して眼球しか動かせなかったが、目の動きを捉える装置でTwitterに安楽死を望む投稿を繰り返していた。投稿を通して知り合った大久保愉一医師は報酬として130万円を受け取り、仲間の医師とともに林さんの自宅を訪れて体内に薬物を注入し、死に至らしめた。
翌年、大久保医師らが嘱託殺人の疑いで逮捕されると、安楽死を巡り賛否両論を巻き起こした。ところが捜査の過程で、大久保医師が仲間の医師の父親の殺害にも関与した疑いが浮上。報道は大久保医師の責任を厳しく追及し、世間も「優生思想の殺人鬼」として非難する空気に一変した。判決は「生命軽視の姿勢は顕著」「自己決定権から命を絶つために他者の援助を求める権利は導き出せない」とし、患者の嘱託があったとしても正当化されないと結論づけた上で、別の殺人も合わせて懲役18年の刑を言い渡した。
しかし、こうした判決や世間の見方は、当事者である林さんの思いをどこまでくみ取っているだろうか? 本作は別の視点を提示する。彼女はどういう人生を歩み、どういう思いを抱いていたのか。林さんの父親、Twitterで交流していた元看護師、難病患者への取材を重ね、安楽死を選んだ本人の人生に分け入っていく。


