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慶応陸上部はなぜ強い? コーチ不在でも山縣亮太ら躍進の理由

どうしたら速く走れるのか……自分の頭で考え続ける

2018/10/13
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最終学年で日本一に戻ってきた

 そして、そんな強力な先輩2人に次ぐ形で頭角を現してきたのが永田だ。

「OBの皆さんが活躍している中で、『現役はなにをしているんだ』とは言われたくなかった」

 そう語るように、9月の日本インカレではアジア大会の400mリレー金メダルのメンバーである多田修平(関学大)を抑えて優勝。晴れて学生チャンピオンになると、難しいコンディションだったこの国体でもしっかりと決勝にまで残って見せた。

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インカレでは男子100mで優勝した永田 ©EKIDEN NEWS

 永田は小さな頃から同世代のトップを走り続けてきた選手だ。中学時代に100mで全国制覇を達成すると、高校進学後も国体優勝、ユースの代表入りなど着実に成長を続けた。だが、高校3年時にはタイトルを逃し、少しずつ周囲に追いつかれる格好になっていた。

「周りに差を詰められている状況もあって、自分自身の頭で考えて陸上競技をやってみたかったんです。だから慶応を選んで進学しました。でも、これまではなかなかうまくいかない部分も多かったですね」

 それでも地元・長崎在住のトレーナーと協力したウエイトトレーニングや、前述の臼井氏によるアドバイス等もあり、ようやく最終学年で日本一に戻ってくることができた。

「正直、まだ日本代表を目指すといえるレベルではないと思います。でも、卒業後も競技は続けるので、少しずつ進化していって先輩たちと戦えるようになりたいですね」

国体にて(左から順に)永田、山縣、小池のスリーショット ©EKIDEN NEWS

現在の課題や調子の“言語化”が非常に上手い

 三者三様の経緯でスプリントを続ける3人だが、話を聞いてみて、共通した部分があるように感じた。それは、自身のレースの課題や現在の調子の“言語化”が非常に上手だということだ。いまの自分はどのくらいの調子であって、どこを修正すればベストになれるのか――それを言葉で表現することができるということはすなわち、自分の置かれている立ち位置や問題点を冷静に分析できているということである。

 これは、学生時代に決められた指導者が居なかったことで「どうしたら速く走れるのか」を自分の頭で考え続けなければならなかったことと無縁ではないだろう。

 もちろん最初から優秀な指導者がいれば、自分の課題への答えに最短距離でたどり着くことができるし、足りない部分を見つけることもしやすいだろう。ただ一方で、自分しか理解できない大きな壁にぶつかった時に、それを打開できるのはあくまでも自分だけだ。慶応というフィールドにおいてそういう能力が育てられたということと、今季の3人の活躍は決して無縁ではないと思う。

 今年は日大アメフト部の危険タックル問題に始まり、ここまでスポーツ界における不祥事が非常に多かった。数々起きた問題の大きな原因のひとつが、指導者による「上意下達」のシステムが強すぎたことが挙げられるように思う。だからこそ、こういった自分の頭で考え、日本トップクラスにまで辿りついたアスリートたちの存在というのは、とても意味があることではないだろうか。

 これまでの“伝統的な”日本スポーツ界の在り方とは少し異なる流れが、ようやく起き始めているのかもしれない。

慶応陸上部はなぜ強い? コーチ不在でも山縣亮太ら躍進の理由

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