30歳という人生の節目のタイミングで、新刊『魔女になりたい』を刊行した文筆家の伊藤亜和さん。2024年のデビュー以来、常に注目されてきた伊藤さんご自身のこと、「自分の言葉」で書き続けることへのこだわり、そして“絶縁”していたセネガル人のお父さんとの和解を描いた話題のエッセイについて、文芸評論家の渡辺祐真さんが深掘りします。(全2回の1回目/2回目へ続く)

伊藤亜和さん、渡辺祐真さん ©佐藤亘/文藝春秋

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「お父さん-不仲篇-」が完結した

渡辺祐真さん(以下、渡辺) 今日のために伊藤さんのこれまでの作品を読み返して来たのですが、描かれているテーマの柱は主に「ご家族」「アルバイト先での出来事」「お友達」の3つですよね。

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伊藤亜和さん(以下、伊藤) そうなんです。長年一緒に暮らしてきた家族(父、母、祖父、祖母、弟)や身近な人たち、バイト先での出来事を中心に書いてきました。

渡辺 伊藤さんがバズるきっかけとなったnoteのエッセイ「パパと私」は、セネガル人のお父さんとめちゃくちゃな喧嘩をして、ほぼ絶縁状態になったところから始まっていました。それが最新作『魔女になりたい』のラストでは、なんと和解をしたと! これまで出されてきた5冊を経て、「お父さん-不仲篇-」が完結したんですね。

伊藤亜和『魔女になりたい』

伊藤 そうですね。「第一幕〈完〉」というか(笑)。年齢的にもエピソード的にも、“1周目”が終わったなという感覚がありました。

渡辺 それには明確な理由があったというよりは、なんとなく伊藤さんのお気持ちがスイッチしたことが大きいのかなと思いますが、中でもご結婚されたことが大事な要因の一つでしょうか。

伊藤 それはとても大きいですね。昨年の12月に結婚したのですが、「自分だけの人生じゃないんだな」と思えるようになって。家族は生まれつきくっついてくるものですけど、自分が成長して自分なりの考えを持ち、その考えに基づいて出会った人と新しく家族になるというのは、一つの集大成のような気がしたんです。

渡辺 そしてある夜、お父さんに久々にLINEを送ってみたところ――

伊藤 はい、酔っ払って。

渡辺 酔っ払って(笑)。数日後に返答があったんですよね。お父さんは普段は全然LINEを使っていないのに、たまたま気が向いてアプリを開いてみたら、伊藤さんから連絡が来ていてびっくりしたと。

伊藤亜和さん ©佐藤亘/文藝春秋

伊藤 そうなんですよ。届いていたメッセージがつい3日前のものだったから、大慌てで電話をかけてきたらしいです。

渡辺 そうなんですね。ちなみに伊藤さんはセネガルには行かれたことはあるのですか?

伊藤 実は一回も行ったことがないのですが、来年新婚旅行で行く予定なんです。父は来年セネガルに引っ越すことになったので、私が行く頃にはセネガルの人として暮らしている予定ですね。