キリギリスは金の計算が大の苦手なので、以前から家計は夫に丸投げだったのだ。夫は稼ぎはゼロだが倹約家で堅実な男だ。彼がなんとかしてくれるでしょ、と、タカを括った。なんともならないのは薄々承知だったけど、考えると落ち込むので思考停止という逃避を敢行したわけだ。
ちなみにキリギリスの夫は10歳年下のゲイで香港人である。新宿二丁目で知り合い、あっという間に大親友になって結婚までしてしまった。というのも、バツイチのキリギリスは最初の結婚にひどく幻滅したため、2度目の結婚相手に恋愛ではなく友情の深さを求めたのだ。長い人生をシェアするパートナーには恋愛感情もセックスも必要ない、互いに思いやる気持ちと信頼感こそが重要だ、と思ったからである。その考えはどうやら当を得ていたらしく、ゲイの夫とはかれこれ25年も仲良く暮らしている。キリギリスにはもったいないほど心優しく理解があって、やりたい放題の妻を文句ひとつ言わずに支え続けてきた。だから今回も「こいつがなんとかしてくれる」などという甘えた考えを抱いた次第であった。
ついにお金がなくなった
キリギリスの夫は、何も言わずに金のやりくりに腐心したらしい。「らしい」というのは、彼がどうやって金を工面したのか、当時のキリギリスは一切知らなかったからだ。後で知ったことだが、彼は妻に内緒で自分の実家に支援してもらったようである。しかし、その金もついに尽きる日が来た。いよいよ生活が立ち行かなくなった頃、夫はしぶしぶ妻のキリギリスに実情を伝えた。
「あのね、うちにはもうお金がないよ」
「え? ああ、うん……」
むしろ、今まで維持できていたことが不思議なくらいだ。キリギリスは驚きこそしなかったものの、ついに観念する日が来たのだと悟った。