装丁は「何のためなのかよくわからないけれど、凄そうな機械のイラストで」

 第一作品集となった『探偵ガリレオ』の装丁については、東野さんから「何のためなのかよくわからないけれど、凄そうな機械のイラストで」というご要望で塩谷博明さんに描いてもらいました。出来上がった見本を見て、「自分の今までの本で一番好きな装丁かも」と仰っていただきました。「新本格というジャンルがありますが、この作品が自分の考える【新本格】なんです」とも言われ、「これこそ、真の新本格ミステリー」と帯にも入れさせていただきました。二週間くらいで増刷がかかり、ご連絡したらとても喜んでいました。やはり、内容的に受け入れられるか少し心配されていたのかもしれないです。「オカルト的なトリックであれば、もう何作か書けるかも」ということで、シリーズ二冊目が2000年に刊行されました。こちらは最初「ガリレオ怪奇事件」というタイトルが候補だったのですが、最終的に『予知夢』となりました。『予知夢』の単行本装丁は聖骸布をイメージしています。

単行本『探偵ガリレオ』(文藝春秋)。装丁は「凄そうな機械のイラストで」という著者のリクエストから生まれた。

 ようやくお願いしていた書下ろし長編に取りかかっていただき、仮題「奇跡の夜」が『秘密』というタイトルに決まったのが1997年の暮れでした。98年9月に刊行した『秘密』はデビュー作以来、初めて10万部を超える(最終的に単行本・文庫をあわせて237万部)ベストセラーになりました。直木賞候補にもなり、落選し続けてきた日本推理作家協会賞を受賞、映画化もされ、東野さんのブレイクを告げる一作となりました。

 先に刊行した『探偵ガリレオ』より先に『秘密』を文庫化していますが、これは東野さんと相談したところ、「文春文庫の一冊目となる作品だから、ヒット作の『秘密』を置いた方がいい」という話になったからです。この当時は、まさか「ガリレオ」がここまで大きなシリーズになるとは予想していませんでした。

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『秘密』の翌年刊行された『白夜行』(集英社)も好評を博し、2001年には初の週刊誌連載となる『片想い』を刊行、03年の『手紙』(毎日新聞社)、04年の『幻夜』(集英社)と毎年のように直木賞候補にも挙がる大人気作家となりました。

 当時は打合せや取材対応で頻繁にお会いしていましたが、どんな話題でも、とにかく知識が豊富で面白くてポジティブで、時間を忘れるほどでした。打合せを終えて帰る時は自分までエネルギーに満ちて、未来のことを前向きに考えるモードになれたものです。

担当編集者全員が、東野さんのトリックに!?

 そんな中、次のガリレオは長編でいくことになりました。短編としてのトリックもいったん出し尽くしたし、物理学者・湯川学に好敵手を出したい、好敵手は天才数学者という方針です。連載時のタイトルは「容疑者X」でした。連載中は毎回読みどころがあって、熱く感想をお伝えしていました。もう一人の主人公・石神に感情移入して応援していたのに、中盤でのある行動にショックを受けて悲憤慷慨したり。終盤の原稿をいただいた「オール」の連載担当者が、「花田さん、大変なことになってます……」と飛んできて、真相を知った時には驚愕しました。

 みんな東野さんに見事に騙されていたのですが、実は途中で校正者が真相に繋がるある事実に気がついて指摘をしていたのです。東野さんは「うーん、そこはそのままでお願いします」と。「校正さん恐るべし」と担当編集者の間では今も語り草になっています。

「容疑者X」は単行本化に際して『容疑者Xの献身』(2005)と改題しました。Xをギリシャ文字風にしたのも数式らしくてふさわしいと思います。この作品で、東野さんは第134回直木賞を受賞しました。6回目の候補で、代表作となるこの作品で受賞がかなったのは結果的には理想的だったとも思います。

シリーズ最大のヒット作である『容疑者Xの献身』(文春文庫)

 2007年に「ガリレオ」が福山雅治さん主演でドラマ化され、湯川のバディとして草薙刑事とは別に、若い女性刑事を登場させてほしいとテレビ局側から要望が出ました。東野さんは、自分でちゃんと必然性のある設定として書きたいと、「落下(おち)る」という短編で内海薫を誕生させてくれました。『予知夢』を刊行した後、ガリレオの短編はこれ以上書くのは難しいかなとおっしゃっていた東野さんでしたが、結果的にその後も短編集『ガリレオの苦悩』『虚像の道化師』を刊行することができたのは、内海というキャラクターが生まれたおかげかもしれません。

『容疑者Xの献身』の事件をきっかけに、湯川は警察への協力から距離を置くようになります。真実を解き明かすことが果たして正しいことなのか。『真夏の方程式』(2011)でも、『沈黙のパレード」(2018)でも、その逡巡が湯川の中にあります。知ることへの好奇心と真実を暴くことへの葛藤、そのバランスを保つためにも、内海の存在は重要だった気がします。