サイレントの喜劇王にオマージュを捧げた『ベルヴィル・ランデブー』(02年)、ジャック・タチの半自伝的な遺稿に基づく『イリュージョニスト』(10年)。数々の賞に輝いた2本の長編アニメーションでファンを唸らせてきたシルヴァン・ショメ15年ぶりの新作が、30~40年代に活躍した映画監督マルセル・パニョルの自伝というのは「らしい」というべきだろう。
10代の頃に気づき影響を受けたマルセルのすごさ
教師から劇作家を経て映画界で活躍し、フランスの国民的作家になったパニョル。その変わり身は、バンド・デシネの脚本家からアニメーション作家に転身し、実写映画監督としても活動しているショメ自身にも重なってくる。
「マルセルのすごさに気づいたのは、映画ファンになった10代の頃。彼の書くセリフに魅せられました。当時は意識しませんでしたが、彼独特のユーモアやニュアンスに影響を受けていると思います」
映画ファンには『愛と宿命の泉』(86年)や『プロヴァンス物語』(90年)の原作者として知られるパニョルは、人情味あふれる喜劇が持ち味。代表作の戯曲「マルセイユ三部作(『マリウス』『ファニー』『セザール』)」は山田洋次の『男はつらいよ』(69年)のヒントになり、それに先がけ山田監督は『ファニー』を翻案した『愛の讃歌』(67年)も撮っている。そんなパニョルの回想を通じて、彼の足跡を振り返る本作。当初はドキュメンタリー映画の企画だったが、途中で伝記映画にシフトした。
「前作の『イリュージョニスト』がタチ再評価のきっかけになったので、同じアプローチを求めたんだと思います」
脚本も手がけたショメは、91分でパニョルの波乱の人生を描きあげた。意識したのは時間の流れだという。
「子供時代はゆっくりだった時の流れが、年齢を重ねるごとに速度を増していく。でも晩年になると、再び穏やかな流れに戻るんです。私たちの人生と同じようにね」
パニョルの孫からオファーを受けた本作は、膨大な資料をもとに数々のエピソードが正確に再現されている。ただし家族関係には、ショメ自身の体験も盛り込まれた。
「マルセルの母親の描写は、私の母からもインスピレーションを受けました。母は器用で絵も得意だったので、影響を受けたし後押しにもなりました。そんなところをこの作品にも活かしています」
劇中パニョルが人生の岐路に立つと、純粋だった少年時代の彼が守護天使のように現れて進むべき道を暗示する。そんなアニメーションらしい表現の一方で、キャラクターの動きは時に写実的で、繊細な感情表現も見てとれる。
「長回しで多くの人々が出てくる複雑なカットも多かったので、作画の前にキャラクターと同じ衣装を着た俳優たちにおもなシーンを演じてもらうことにしたんです。そのレファレンスを基に、アニメーターが手描きしました」


