2024年5月、日比谷公園から京橋へと向かうデモ行進の列には、不穏なプラカードを掲げて練り歩き、沿道から大声援を浴びる現職国会議員(当時)、原口一博氏の姿があった。

「ワクチンやめますか、それとも人間やめますか」

 のちに原口氏は、新型コロナワクチンを「生物兵器」などと中傷したとして製薬会社「Meiji Seika ファルマ」から提訴され、2026年10月29日に東京地裁から220万円の賠償を命じられている。

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 現在放送中のドラマ『ポリティカルパン』(フジテレビ系)でもネット表現等の監修を担当しているトンデモウォッチャーの黒猫ドラネコさんは、過激化する反ワクチン・陰謀論集団の現場に長年潜入し、定点観測を続けてきた。

『参政党と大陰謀論時代』(文春新書)は、参政党の躍進を軸としながら、同時並行で勢力を伸ばした多様な反ワクチン・陰謀論集団の狂騒についても詳述している。前回に引き続き、同書より一部抜粋して、熱狂渦巻く集会の最中に起きた「有名大物歌手登場!?」からのまさかの大ズッコケ展開と、異様なデモ行進の顛末を振り返る。

(文中一部敬称略)

『参政党と大陰謀論時代』(文春新書)

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ニッポンチャチャチャ

 そんな流れで、林の話は「政府の隠蔽体質」という内容に移り、陰謀論なんかじゃないといったニュアンスで、この界隈では定番になっている「日本航空123便墜落事故(実は撃ち落とされたとする説)」を持ち出した。参加者の多くは「ネットDE真実」な方々ばかりなので周知の話だ。

 そして持ちネタである「安倍晋三元首相暗殺の真犯人は別にいるとの説」に入った。なんとここで、客席の最前列にいた元TBS記者でジャーナリストの山口敬之が、自ら興奮気味に客席の方を向いて立ち上がった。そして「もっと騒げ!」とばかりに両腕を何度も大きく振って拍手を煽った。「うおおおおお!」と会場が沸いた。

 林は舞台上から山口を指し「ジャーナリズムは命かけなきゃダメなんです!(追及しているのは山口)一人だけです!」。そう紹介された山口は満足げに拍手に応えた。

 このあと、なぜか林の音頭で「ニッポンチャチャチャ」を5回やった。会場は大喜びだった。林ファンの間では定番なのかもしれないが、初見には何がなんだかさっぱり分からない。内輪ネタはちゃんと説明してからにしてくれないか……。こうした狂暴なパフォーマンスの数々が集団の名物にもなり、林はこの団体の主役になっていくのだった。

まさかの大物

 司会者から「林氏のテーマソング」と紹介があったのは、CHAGE and「あの人」の「YAH YAH YAH」であった。

 懐かしい名曲が音楽堂に響き渡った。林が降壇してからも曲はしばらく流れ、次の人物の登場までに不思議な間ができていた。司会者が舞台袖に目をやり、何か入場のタイミングを確認しているように見えた。

 なんだこの時間は。ざわつく会場。まさか……ついにこの曲の「あの人」がこの集会に参戦するのか!? そんな期待を背負い、司会者は「この国民運動の応援団長でございます! 基調講演のラストはこの方でございます!」とすごく嬉しそうに煽ってきた。

 ああ、そうに違いない! 次々と立ち上がる客席。スマホを構え、ハンカチを準備して飛び跳ねて泣きそうになっているおば様もいた。大ファンでドストライクの世代だろう。誰もが知る大物歌手のあの人が来る……? 誰だってそう思う流れだった。

「え、ウソ!? マジ!?」などと大はしゃぎの声があちらこちらから上がり、歓声と拍手で観客席が揺れた。「YAH YAH YAH」のコールと、「殴りに行こうかー!」の名フレーズとともに、憎きWHO、日本政府、厚労省、そしてディープステートの悪魔に、みんな(私以外)で拳を振り上げる準備は、もう万端だ! さあ来たぞ!

 そして司会者の「お呼びいたしましょう~!」に合わせて舞台袖から見えた、真っ赤なシャツ。軽快なステップを踏むかのようにして手を振りながら登場したのは「池田としえ日野市議会議員でいらっしゃいます!」。

 ……ん? 時間が停まったように思える瞬間があった。その後すぐ、日本の反ワクチン活動の生き字引である池田先生に失礼のないよう「お、おお……おおおおー!」と歓声が上がって再び時は動き出した。パンデミック条約反対だとかWHO脱退だとか、反ワクチンなのかどうかももはや関係なかった。誰も口には出さないが、私を含む会場のみんなの巨大なツッコミ思念が一つになってステージに注がれた。

「(お前かい!)」

 隣に座るおじさんの「応援団長って言うからもう……ああ」とあからさまなガッカリに、私は堪えきれず大爆笑してしまった。

 期待されたASKAさんは「集会に行きたいけど剣道の大会で忙しい」などと言って断っていたようだ。ちなみに26年現在までこの手の集会に実際に登場したことは一度もない。