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2018/10/21

genre : ライフ,

ランプの宿 高峰温泉(長野県・高峰温泉)──手作りで完成させた雲上の野天風呂

「この場所で温泉に入れたら、どんなに気持ちがいいだろう。そうだ。ここに野天風呂を作ろう」

 宿のご主人・後藤英男さんがコツコツと手作りで完成させた「雲上の野天風呂」は、雲より高い場所から絶景を見下ろす名物温泉になった。木立に隠れた場所に男女別にあるので好きな時にふらりと入れるのがうれしい。

 標高2000mから見下ろすと、彼方に空に浮かぶように連なる山々は日本アルプス。湯船の中は深めで手前がベンチのようになっている。硫黄が香る湯の中に腰かけて景色を眺めたり、深い湯船に首まですっぽり浸かって温まったり、澄み渡る山の空気に包み込んで夢心地にさせてくれる温泉だ。

 絶景野天風呂はもちろん必ず入りたいのだが、実は、わたしの愛してやまない温泉は内湯にもある。2カ所ある内湯には、それぞれ温度の異なる湯船が2つずつ。これには理由があって、そこがまた魅力でもある。

 特に気に入っているのは1階にある「ランプの湯」だ。高峰温泉の自家源泉は、宿から1㎞ほど下の標高1700mのあたりにあり、宿まで引湯(ひきゆ)している。源泉温度は36℃。宿の主人はそれが魅力として、小さい湯船にはそのまま注ぎ、体温に近い「ぬる湯」になっているのだ。これが、たまらなく気持ちいい。

 隣の大きな湯船には加温したあたたかい温泉が注がれているので、あつ湯とぬる湯を行ったり来たり。温度の異なる浴槽で温冷交互浴(おんれいこうごよく)をすることで疲労回復や自律神経を整えることができるから、夜はぐっすり眠れる。

「まもなく人工衛星が通過しますよ」

 泉質は含硫黄─カルシウム・ナトリウム・マグネシウム─炭酸水素塩泉。硫黄の働きで血行を促進し肌がツヤツヤになる温泉だ。温泉は飲泉場で飲むこともできる。渋めの昆布茶のような味で、胃腸の活性化につながる。

標高2000mの野天風呂からは圧巻の眺望

 夕食を食べていたら、宿のスタッフが何か叫んでいる。「まもなく人工衛星が通過しますよ」。なんですって? 人工衛星は肉眼で見えるものなの? 食事処の電気が消され、みんなで窓辺に張り付いた。すると、目の前をすーっと光る人工衛星が通過していく。ほんとだ。本当に見えた。なんだか泣きそうになってしまった。こんな人生で初めてかもしれない出来事も高峰温泉では日常茶飯事。雲上の温泉宿はすごいのだ。

 宿主催の体験アクティビティに豊富なプログラムがあるのもうれしい。一番人気の夜の星の観望会は、大型の天体双眼鏡などを使って玄関前で行われる。標高2000mから眺める満天の星は、数が多すぎて星座がわからなくなるほどだ。

 宿のネイチャースタッフがガイドしてくれる自然観察会は、山歩きはちょっと、という人でも気軽に楽しめる。朝食後に出発して12時には宿へ戻ってくる。近くの池の平湿原を中心に初心者でも歩ける優しいコース。その季節でいちばん美しい場所へ案内してくれる。歩きやすい靴と服装なら大丈夫だが、宿でウエアも借りられるので安心だ。

 そういえば、冬の「高峰温泉」は宿に到着する前から冬ならではのアトラクションがある。宿専用の雪上車で麓のスキー場から宿まで登っていくのだ。雪のない季節は宿の前まで車で行けるが、道は冬季には閉鎖となるので下の駐車場まで宿の雪上車が迎えに来てくれる。