黄金崎不老ふ死温泉(青森県・黄金崎温泉)──日本海に沈む夕日を眺めるために
ざっばーん。ざっばーん。波しぶきがかかりそうなほど海が近い。近いというよりも、この温泉はすっぽりと大海原の中にある。
「黄金崎不老ふ死温泉」の名物温泉は「海辺の露天風呂」である。宿からエレベーターで海岸まで降りることおよそ20m、磯の中に一筋にのびる道を歩いて露天風呂へ向かう。この道のりがスリル満点。風が吹こうが、雪が降ろうが、灼熱の太陽が照らそうが、一年三百六十五日、露天風呂に入るためにはこの道を浴衣で歩いていかねばならない。わくわく、ドキドキ、時には決死の覚悟で道を進む。アドベンチャーな感じがたまらなく楽しいのだ。
2回目に宿に泊まった時は、低気圧が通過中で、時折強風が吹き雨まで降っていた。なんとか、海辺の露天風呂に入りたいなあと、雨の止み間をうかがう。すると雲の切れ目から奇跡のように陽の光が差してきた。「今だ!」。風は強いが雨が止んでいる今がチャンスとばかりに海辺の露天風呂へと駆け込む。「わあ、誰もいない。独泉(どくせん)だ」(ちなみに温泉好きの間では、大浴場に誰もいなくて独り占め出来た時のことを「独泉」と称する)。
束の間の晴れ間に絶景温泉を楽しみ、浴衣を羽織っていると、バタバタバタ、バタバタバタ。なんと、大粒のヒョウが降ってきた。大自然は時に苛酷。でも、それがまた、醍醐味でもある。
サンセットの時間にはすべてが黄金色に包まれる
この露天風呂を目指して旅する理由は、そこから日本海に沈む夕日を眺めることにある。わたしは、3回目の挑戦で絶景に出会うことができた。左が混浴、右が女性専用と2つの露天風呂は岩に仕切られて並んでいる。湯船にすっぽりと浸かっていると海の中にぽつんといるような感覚になる。サンセットの時間には、海も空も雲も、そして、温泉も入っている人々も、すべてが黄金色に包まれて、ほんとうにほんとうに美しい。
赤茶色の温泉は、とても成分が濃厚だ。泉質は含鉄─ナトリウム・マグネシウム─塩化物強塩泉。塩分が大変濃く、鉄分もたっぷり。炭酸ガスも豊富で、入るとすぐに血の巡りが良くなり、ジンジンと温まって汗が噴き出してくる。
そもそも宿に向う行程が素晴らしい。
不老ふ死温泉へ行く時は五能線に乗る。その時の旅の気分で新青森駅か弘前駅から「リゾートしらかみ」に乗車。津軽弁の語り部のお話や、津軽三味線のライブで盛り上がり、鯵ヶ沢が近づくと列車は海を正面にして走る。海岸線にぶつかるとグイッとカーブして、ここからは海沿いの線路を進む絶景ルートだ。
4月末から12月初旬ごろまでは千畳敷(せんじようじき)駅で15分ほど停車し、列車を下りて奇岩奇石がごろごろとした海岸段丘を散歩できる。さらに列車は西へと進み、ちょこんと飛び出た小さな半島をぐるりとまわってウェスパ椿山駅に到着。宿の送迎バスが出迎えてくれる。