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アメリカやカナダでは「推薦状」が必須

 これについて、モデルになるのが米国のメディカルスクール(医科大学院)の選抜制度です。日本と違って米国やカナダでは、4年間一般の大学で理系の基礎科目を学んだ後に、4年制のメディカルスクールで医学教育を受けるシステムになっています。

 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部内科教授なども務めた、東京大学名誉教授・黒川清氏の著書『大学病院革命』(日経BP)などによると、メディカルスクールに入るためには、まず大学3年生のときに「MCAT」と呼ばれる共通試験に合格する必要があります。それに加えて、メディカルスクールへの入学申請書には、自分が医師に向いていることを示す推薦文や作文を添付する必要があるそうです。

 たとえば、大学の医学・生物学系の研究室や医療機関などで夏休みにボランティアとして働き、教授などから「とても優秀な生徒で、まじめに仕事に取り組んだ」といった推薦状が複数必要となります。さらに作文では、「なぜ、自分が医師になりたいのか」をアピールするのに、自分自身の体験などに基づいた長文を書く必要があるそうです。

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 申請を受けたメディカルスクール側は、大学や共通試験の成績、推薦文、作文などを見て、来てほしい学生から順に面接に呼びます。その方法も通り一遍のものではなく、1人30分から1時間かけて社会問題や倫理問題について問うたり、様々な研究者と討論を行わせたりするなど、入学させるにふさわしい人物かどうかを見極める様々な工夫がなされているそうです。このような面接を複数回行って、入学してほしい人の順に合格通知を出すのです。

 学力テストに偏重している現在の日本の受験システムを急に変えることはできないかもしれません。ですが、「こんな人に医学部に来てほしい」という理念をはっきりさせ、それを実現できるような選考方法を取れば、多くの人が納得するような形で、優れた人材を選び出すことができるのではないでしょうか。

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いかに医師に向いている人を見極めるか

 そもそも、実際の人物を見極めることなく、女子だから、多浪生だからという偏見に基づき、機械的に点数を不利にするのは、あまりにも人をバカにしています。女子や多浪生の中に医師に向かない人はいるでしょうが、それは男子であろうが、現役生だろうが、大学OBの子弟であろうが同じです。

 しかし、2浪、3浪した医師や、他学部を出て社会人を経験してから医学部に入り直した人の中にも、立派な医師になった人がいることを私は知っています。女性医師の中にも、子どもを産み、子育てしながら立派な仕事をしている人がたくさんいます。

 要は、医学部という高いプロ意識や倫理観が求められる「職業訓練校」の入試では、いかに「医師に向いている人を見極めるか」が一番の肝だと思うのです。そうした社会的要請に応えようとする努力が見えないからこそ、医学部入試が「公平・公正ではない」と批判を受けているのではないでしょうか。
 
 全国医学部長病院長会議の偉い方々が集まって、「女子差別、浪人生差別、OB子弟の優遇はダメ」といった、誰もが思いつくような当たり前の指針を示すだけでは、あまりにもバカバカしいでしょう。どのように議論を取りまとめるのか、期待して見守りたいと思います。