まるでオーダーメイドクリーニング
特別な技術があるわけじゃない、気合だ、そう言われているような気がした。バンさんでは、汚れの状態や客の要望を細かく把握し、ひとつひとつ異なる理想の仕上がりを実現している。そのこだわりは、もはやオーダーメイドといっても過言ではない。
例えば、常連のお鮨屋さん。他の衣類とは別工程で前日から丹念に漂白作業を行なう。そのお陰か、何十年ものの割烹着は今でも清々しいまでに真っ白だ。
そして驚いたのがネクタイ。汚れのひどいものは一度全部ほどいて真っ平らにして水洗いに通し、綺麗にしてから縫い直すのだ。だから、ヨレヨレのネクタイだって新品以上にシャキッと見違える。
さらに、裾のほつれや、ボタンが取れているものは哲子さんがこっそり繕ってくれる。しかも驚くことに、価格はどれも通常のクリーニング料金で収めることがほとんど。「分かる人だけ、分かってくれればいい」(哲子さん)、そんなあたたかい気遣いを、夫婦は人知れず何十年もの間続けてきた。
「本当は倍くらいの値段はもらいたいんだけどね。でも、みんな次また来てくれるじゃない? それでいい」(求さん)
仕上げの最終関門
仕上げの最終関門は受付である。ビニールカバーをかけ、店頭に衣類を並べる前に、シミがないか、匂いは残っていないか、隈なくチェックし、受付に立つ哲子さんや美里さん・美咲さんの納得が行かなければ何度でもやり直しが入る。二人娘が内情を教えてくれた。
「父、格好いいこと言ってるけど、実際はやり直しをめっちゃ嫌がりますよ(笑)。こっちもしつこいから。ちょっと気になるところあったら『もっかいやって!』って何度でも戻すんです。『もう見えないよ俺には~』ってよくぼやいてます(笑)」(妹・美咲さん)
最近では、二人の娘たちが母を超える関門として父に立ちはだかっていると聞くが……。
「超えない、超えない(笑)。もうすごいから。うちには『哲子の壁』っていうのがあるんです(笑)」(姉・美里さん)