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免震データ改ざん KYBはなぜマンションの物件名を公表しないのか

データ改ざんが頻発する2つの理由

2018/11/06

genre : ニュース, 社会

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 こうした問題頻発の原因には主に2つの理由が考えられる。ひとつには今、日本の産業界の多くの分野で企業同士の合併(M&A)が繰り返され、マーケット内で独占的地位を享受する企業が増えてきたこと、ふたつには日本の建設業界の誇りともいえる納期厳守の徹底である。

国内シェアは40% 独占企業の慢心

 KYBの名は世の中では自動車部品メーカーとしての名のほうが有名である。この会社は自動車のサスペンションを構成するショックアブソーバーという部品では国内シェア60%、世界第2位を誇る会社である。また、今回問題となったオイルダンパーは自社の売り上げの中ではごく小規模な部門であるが、国内シェアは40%にも達する。つまり競争相手がほとんどいない独占企業ということだ。マーケットで競合がないとどうしても自社の製品に対する過信が生まれる。多少のデータのずれや間違いがあっても他所から指摘され、シェアを奪われる心配も少ないのでいい加減な仕事をしてしまう可能性はなかっただろうか。かなり長期間にわたって不正が見逃されてきた背景にはこうした慢心があるような気がしてならない。

記者会見で謝罪するKYBの中島康輔社長(中央) ©時事通信社

納期が「絶対」日本の建設業界の事情

 他方、免震ダンパーはその多くが新築のマンションやオフィスなどに導入されるものだ。日本の建設業者は納期を守ると言われる。特に分譲マンションでは売主であるデベロッパーが顧客に青田売りをする結果、建物引き渡し日までに建物が完成していないと顧客から大変なクレームを受けてしまうので、納期は「絶対」となる。とりわけ建物の基礎部分を構成するダンパーが正しく設置されなければその後の工事スケジュールにも影響が生じる。そこで基準値に適合しないデータのダンパーが出てきても、交換をしていたのでは納期に間に合わなくなるので改ざんしてでも間に合わせてしまう。こんなシナリオが透けて見える。

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 逆に言えば、最近こうした問題が次々に発覚するのは、日本でも企業内でこうした問題を内部告発できる風土が徐々に根付き始めたからなのかもしれず、以前から実は日常茶飯事で生じていた問題なのかもしれない。