マンション名を公表しない「忖度」には疑問が残る
そしてこの問題は10月19日、不正がみつかった987件のうちの70件につき物件名が公表されるに至った。
KYBの説明によれば、公共施設などを中心に「公共性の高い」もので「所有者の了承を得られたもの」に限って発表したという。実際に内容は官公庁や自治体の建物がほとんどを占めた。いっぽうで不正が見つかった987件のうち約3割にあたる265件は民間のマンションだ。マンションについては資産性に影響が及ぶなどの懸念から具体的な物件名称の発表についてはそのほとんどが見送られる方向にあるようだ。
しかし、こうした建物所有者に対する「忖度」は一見正しい対応のように見えるが、大いに疑問が残るものだ。タワーマンションなどの区分所有者からみれば、今回の問題の発覚は正直、迷惑以外の何物でもない。自分たちが購入した建物の価値が下がる、実際には大地震が起こっても倒壊する可能性はほとんどないとしても、風評被害も心配だ。早急にダンパーを交換してもらい、そして何事もなかったように普段の生活を取り戻したい、ということだ。
建物の重大な瑕疵が隠蔽され続ける
だが、いっぽうで当該マンションが今、中古マンションとして売却される場合、あるいは賃貸に供用される場合、この住戸を「買う」側の立場、あるいは「借りる」側の立場からすれば、建物に重大な瑕疵があるにもかかわらず、この事実が隠蔽されていることになる。これがスーパーで売られている品物を交換するようにすぐに交換可能なものであるならいざ知らず、おそらく会社側の発表した期日(最短で2020年9月)までにすべての交換が行われるとは信じることはできない。
本来の安全な状態に戻すことこそKYBの義務
おそらく2年から3年にわたって、マンションは万が一の危険に晒されているという事実から逃れることはできないし、そのリスクを「対外的」に隠していくことは社会的な観点からは見過ごすことはできないだろう。住戸の売買や賃貸借だけでなく、マンションには日常的に宅急便の業者だって、郵便配達だって訪れる。友人や親せきだって遊びに来る。そうした人たちにKYBは向き合っていないのが気になる。マンションの資産性はダンパーを交換すれば「元通り」になるはずであるし、早急に交換し、迷惑を受けた建物を本来の安全な状態に戻すことがKYBの義務である。
資産性を維持するということは、欠陥を隠すことではない。ここは民間建物を含めて物件名はすべて公表し、早期の事態収拾を諮るべきなのだ。