「さあなんでも聞いてくれ」と余裕綽々
25年前、記者として初めて海外出張したとき、テキサス州の本社で大手PCメーカー「デル」の創業者、マイケル・デル氏にインタビューした。
高層ビルの最上階にある彼の部屋で出迎えてくれたのが、彼一人だったことに驚いた。日本で社長の取材をするときには広報や社長室のスタッフが必ず同席する。広報担当役員が同席することもある。こちらが細かい数字などを尋ねると社長は「どうなってる」と振り向き、後ろに控えたスタッフが分厚い紙のフォルダーから数字を探すというのが当たり前の光景だった。
ところがマイケル・デル氏はたった一人。それでも「さあなんでも聞いてくれ」と余裕綽々だ。こちらも意地になって細かいデータを聞くのだが、手元のキーボードをカタカタっと叩いて、すぐに数字を出してくる。在庫や販売データはほぼリアルタイムの数字だった。彼はまさにITを駆使して会社の隅々にまで目配りしていた。そのビジネス・パーソンとしての戦闘力の高さに圧倒された。
リーダーは現場を知らない「神輿」になってしまう
ここに日本のリーダーと米欧のリーダーの決定的な差がある。日本の場合、細かいデータに気を配るリーダーは「器が小さい」と言われ、「良きに計らえ」と部下に任せるリーダーが「大物」だと言われがちだ。これに対して米欧ではトップに最大量のデータが集まる。それをスピーディーに咀嚼し瞬時に判断を下すことが、トップに立つ者の仕事である。
大きな組織で「良きに計らえ」を続けていると、重要な情報は事務方に貯まりリーダーは現場を知らない「神輿」になる。日本の政治家と官僚の関係がまさにこれであり、大企業の社長と現場も同じである。
だからこそ、意思決定する立場にある人々には、ITを使いこなして情報武装して欲しいのである。タブレット端末やパソコンやスマホが使いこなせれば、知らぬはトップばかりなりという、情報量の非対称を少しは改善できるはずだ。
「偉い人たち」こそタブレットやスマホを使いこなし、官僚や現場を慌てさせる。これもまた立派な「働き方改革」ではないだろうか。