俳優の小泉孝太郎が千両役者に躍り出た2018年、弟の小泉進次郎は9年間の政治家人生で数度目の逆境を迎えた。
7月、参議院の定数増を盛り込んだ公職選挙法改正案に賛成票を投じると、議場からヤジが飛んだ。「国民を舐めてはいけない」などと改正案に異議を唱えてきたのにもかかわらず、採決では党議拘束に従い、腰砕けになったからだ。進次郎は、「色々な議員が賛成票を投じた中で、私だけにブーイングをしてくれるのは名誉だ」と饒舌に語り、強気を装った。
8月以降、こんどは沈黙に転じた。自民党総裁選が安倍晋三と石破茂の一騎打ちの構図となる中、投票日直前までひとり頑なに態度を表明しなかった。
告示前、同僚議員からの説得工作やマスコミの取材攻勢を逃れるかのように、インドやニュージーランドに飛び、新潟や長野の農村を訪ねた。最後まで沈黙するかと思えば、総裁選当日に石破支持を表明。投票後、「人との違いを強みに変えられるかが大事。そんな自民党でなければいけない」と、言葉巧みに説明した。
政党人たるもの、党首選で旗幟を鮮明にし、権力闘争に身を投じるのは古今東西の常識であり、党員へのマナーだ。ましてや森友学園や加計学園の不祥事を「平成政治史に残る大事件だ」と指弾し、身内の政権に説明を迫った急先鋒でもある。
そもそも30代の閣僚未経験者が「首相候補」として頭角を現したのは、父譲りのマイクパフォーマンスが無党派層の圧倒的多数にウケたから。被災地や過疎地を訪ね、当事者に寄り添う姿勢が人気に拍車をかけ、期待は実体以上に膨らんだ。
ところが、ここに来て正念場という正念場で優柔不断な態度を取り、洞ヶ峠(ほらがとうげ)を決め込むようになった。相変わらず「ポスト安倍の大本命」と持ち上げて顔色を窺う新聞やテレビに対し、「これでは“退次郎”」(週刊新潮)、「新・いうだけ番長」(週刊文春)と批判する雑誌ジャーナリズムのほうが正鵠を射ている。実際、永田町のプロの間でも、指導者としての資質に疑問符を付ける声も出始めている。