1ページ目から読む
4/4ページ目

 いまや中国のGDP(国内総生産)は日本の倍以上あり、国民のゆたかさを示す一人当たりGDPでもシンガポールや香港に大きく水をあけられ、韓国に並ばれようとしている。それによって損なわれた自尊心を回復するために、書店には「嫌韓・反中」本が並び、外国人(白人)が「日本スゴイ」と絶賛するテレビ番組ばかりがつくられるようになった。

 しかしこれは、逆にいえば、「日本人」にかかわりのないテーマ、たとえば夫婦別姓や同性婚、女性の社会進出などに関しては「リベラル」でかまわないということだ。嫌韓・反中と同様にLGBTを「生産性」がないと批判した女性議員は、ここを見誤って地雷を踏んだのだ。

 日本社会の底流にあるのが「リベラル化」と「日本人アイデンティティ主義」だと考えれば、安倍一強の理由がわかるだろう。

ADVERTISEMENT

©文藝春秋

 安倍首相は既成のリベラル派知識人やマスコミと敵対することで、彼らを嫌悪するアンチ・リベラル(朝日ぎらい)のネトウヨ層をつかんだ。これが政権の岩盤支持層で、森友・加計問題でどんな疑惑が出てもいっさい影響しないばかりか、かえって支持は強まっている。トランプ支持者も同じだが、政権への批判は「俺たち」への攻撃だと見なされるのだ。

 その一方で安倍政権は、「女性が輝く社会」や「同一労働同一賃金」などのリベラルな経済政策でウイングを「左」に伸ばしていく。この戦略が有効なのは、安倍政権と競合する有力な保守勢力が存在せず、これ以上「右」にウイングを伸ばしても新たな支持層は開拓できないが、「リベラル」側には広大な沃野が広がっているからだ。

「真正保守」の安倍首相は、2014年以降靖国神社への参拝を見送り、東京裁判批判など歴史修正主義的な言動を控え、「いかなる譲歩も許されない」とされた従軍慰安婦問題では朴槿恵前韓国大統領と「最終合意」を結んだ。保守派のなかにはこうした「変節」に不満もあるだろうが、ほかに選択肢がない以上、安倍首相を支持するほかない。

 そう考えれば、安倍政権を「保守」か「リベラル」かの二分法で議論することに意味はない。長期政権の秘密は、ネトウヨに対しては「日本人アイデンティティ主義」、経済政策では「リベラル(ネオリベ)」、高齢者や旧来の支持者に対しては「保守」という多面性にある。

 各種の世論調査では、安倍政権は若者に人気がある一方で、年齢が高くなるほど支持率は下がる。それは安倍政権の進めるネオリベ的な経済政策が高齢者の既得権を破壊するからだろうが、それと同時に、とらえどころのない「ぬえ」のような政治姿勢が「まっとうな」保守派には受け入れ難いからではないだろうか。

 18年9月に行なわれた総裁選で安倍首相は下馬評どおり三選を決めたが、石破茂が地方党員票の45%を獲得したことからもわかるように、積極的に支持されているとも言い難い。国民が求めているのは安定で、安倍首相でなくてもべつにかまわないと思っているのだ。

※社会人・就活生なら押さえておきたい 2019年はずせない論点がこの1冊に!『文藝春秋オピニオン 2019年の論点100』発売中

2019年の論点100: 文春ムック

文藝春秋
2018年11月7日 発売

購入する