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「すべての国民が高い教育を受けられる」ことも、「子どもを産んでもハンディキャップにならない社会」も、「同じ仕事をしているのに待遇が異なる差別をなくす」のも国際標準のリベラルな政策で、安倍首相が「リベラル」を自称するのは間違ってはいない。

 消費税増税、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定加盟、原発再稼働などの安倍政権の政策は、リベラルだった民主党・野田政権とまったく同じだ。「人づくり革命」で提唱した教育無償化は高校無償化の延長で、安倍政権はますます民主党政権に似てきている。長期政権の秘訣は、民主党時代を全否定するのではなく、まるごと引き継いだことにある。

 なぜこんなことになるのか。その理由はきわめてシンプルで、ほかに政策の選択肢がないからだ。

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 急速に少子高齢化が進む日本経済は空前の人手不足で、高齢者と主婦を労働市場に参入させ、外国人労働者を増やさなければ回っていかない。

「人生100年時代」を迎えて、定年が60歳のままなら老後は40年もある。1000兆円もの借金を積み上げた日本国に、ますます増えつづける高齢者の面倒を見る余裕はない。

 保守かリベラルかにかかわらず、誰が政権をとっても、夫がサラリーマンとして働き、妻が子育てに専念する日本的雇用を破壊し、「一億総活躍」を目指す以外にないのだ。

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 イギリスのEU離脱を決めた国民投票やトランプ大統領の誕生以来、世界も日本も「右傾化」しているというのが常識になっている。しかしこれは逆で、世界を覆うのは「リベラル化」の大潮流で、日本は半周遅れでそれに追随しているのではないだろうか。

トランプ大統領誕生以降、世界は「右傾化」 ©文藝春秋

 自民党に所属する保守派の女性国会議員が雑誌への寄稿で、「LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)」に対し、「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」と述べたことが激しい批判にさらされた。

 かつてならこうした主張は「ちょっとした言い間違い」で済まされただろうが、いまでは国会前で議員辞職を求める抗議集会が行なわれ、「そんなにおかしいか」という特集を組んだ雑誌はさらなる批判を浴びて休刊してしまった。

 東京医科大学が入試の得点調整で女子受験生の合格者数を抑えていた問題も、10年前なら話題にすらならなかっただろう。欧米を席巻した「#MeToo」運動も同じで、人種や性別、性的指向などでひとを差別することは強く嫌悪されるようになった。

「敬虔なカトリック国」アイルランドの国民投票では、圧倒的多数で中絶合法化が決まった。日本でも、保守派の名立たる論客たちが天皇の生前退位に反対したにもかかわらず、世論調査では9割近くが退位を支持した。

「やりたいことは(法に反しないかぎり)自由にできる」「やりたくないことは強制されない」という自己決定権は、リベラルな社会の根本原理だ。いまでは宗教や伝統を理由に権利を制限することは認められなくなった。

 だとしたら、日本の「右傾化」とはなんなのか。私はそれを「日本人アイデンティティ主義」だと考えている。