現代日本の「保守」と「リベラル」を理解するうえで決定的に重要なのは、40代と50代のあいだに政治的な「断層」が生じていることだ。
読売新聞社と早稲田大学現代政治経済研究所が世代別の政党観を調べたところ、60代以上ではもっとも保守的なのが自民党で、旧民進党が中道、共産党がリベラルとなった。これは、メディアなどが当然の前提とする「保守vsリベラル」の対立の構図と同じだ。
ところが政党観は年齢が下がるにつれて変わっていき、18〜29歳ではもっとも保守的なのが公明党、次いで共産党、旧民進党で、自民党は中道、もっともリベラルなのが維新になっている。驚くべきことに、いまの若者は共産党を「右派」、自民や維新を「左派」と見なしているのだ。
日本共産党は、憲法改正や安保法制はもちろん、特定秘密保護法や「共謀罪」、消費税引き上げから働き方改革、築地市場の移転に至るまであらゆることに反対し、現状変更を頑強に拒絶することで、有権者の3%程度の岩盤支持層を維持している。高齢者はこの方針を「リベラル」と評価するが、若者には「保守」としか映らない。
この興味深いデータは、「若者が右傾化している」というのがまったくの俗説であることを示している。若者はむかしもいまも一貫してリベラルで、かつてリベラルとされていた政党が「右傾化」したのだ。こうしてリベラルな若者は、より自分たちの政治的主張にちかい自民党=安倍政権を支持するようになった。
私たちは、「右」と「左」が逆になった『鏡の国のアリス』のような世界に迷い込んでしまった。日本の政治を語るなら、まずはこの事実(ファクト)を押さえておかなければならない。
世界のリベラル化
冷戦の終焉とともにバブル経済が崩壊し、1990年代後半には北海道拓殖銀行や山一證券など大手金融機関が次々と経営破綻して、戦後日本の繁栄を支えてきた政治・行政・経済の諸制度が耐用年数を超えたことを白日の下にさらした。
終身雇用・年功序列の日本的雇用も行き詰まり、労働市場では非正規雇用が爆発的に増えていく。ロストジェネレーション(ロスジェネ)と呼ばれるようになる彼らが、正社員の雇用の安定しか考えない労働組合を見限り、その支援を受ける政党を「保守」と見なすのは当然だ。
こうした時代の変化にいち早く気づいたのが小泉純一郎で、「自民党をぶっ壊す!」と宣言して2001年の総裁選に挑み、熱狂的な小泉旋風を巻き起こして首相の座を射止めた。小泉の劇場型政治を範にしたのが橋下徹で、「大阪から日本を変える」というスローガンで政治に新風を吹き込んだ。
左派の知識人は小泉政権を「ネオリベ」、橋下と日本維新の会を「ハシズム」と嫌ったが、若い世代はそれを「改革」だと受け止めた。「教育無償化」を掲げ、「女性が輝く社会」を目指し、「同一労働同一賃金」を法制化しようとする安倍政権も、この改革路線を踏襲している。