「特権階級の悪を許さない」の精神
過去にも、兵役を免れようと工作した人間が世論の批判の矢面に立たされる出来事は数多あった。特にそれが経済的に豊かな財閥親族や芸能人となると、国民からの批判の声は余計に高まる。工作事実が発覚したことで経済界から追放された人間や、芸能界で長く“干された”俳優や歌手などは数多い。
これには特権階級に向けた、韓国世論の厳しい視線も関わってきている。ここ最近でも、例えば大韓航空会長の娘が起こした通称“ナッツリターン事件”や、先日報道された韓国のIT業界の王と呼ばれるヤン・ジンホ氏のパワハラ、暴力問題などが起こると、一気に国民全体に怒りのスイッチが入り、報道そしてインターネットの世界で対象者が袋叩きにされる。思えば、パク・クネとイ・ミョンバクという直近の大統領2人も、その不正を暴かれ現在は刑務所内にいるのである。
当事者は冤罪やぬれ衣を着せられたわけではなく、皆が罪や不正を犯している事実は変わらない。そのため、処罰を受けることは当然だろう。ただ、そうした「特権階級の悪を許さない」といった感情や監視の精神は強く、問題が起こるとその情緒が途端に大多数の世論へと膨れ上がっていくのが韓国の特徴だ。そして国民感情の高まりが、時に行政や司法の判断へと昇華していくことも散見されるのである。
「厳しくない決定」と受け止めた韓国国民
兵役問題に話を戻すと、世界大会で好成績を収めたアスリートや国際的に名を広めた芸術家は免除される特例が存在するが、例えば芸能人など他の分野の人間には特例がない。K-POPの世界的広まりや韓流ブームなど、韓国の存在やイメージを高めることに貢献している芸能界の者からは不平の声が挙がることもあるという。反対に言えば、特例が認められているアスリートが不正を働けば、より大きな批判の波に襲われるということでもある。
今回のチャン・ヒョンスの件は、彼はすでに兵役を免除された立場であったが、それと引き換えになる代替活動においても不正が発覚してしまったことになる。これまでの話の流れからすれば、韓国国民の大半が代表追放を「厳しくない決定」と受け止めているのは、至極当然の結果なのだろう。