韓国代表監督は「明らかな損失」
一人のサッカー選手の人生を考えれば、とても惜しい出来事である。
チャン・ヒョンスは選手としてのレベルは高く、DFとしての強さに加え、的確なコーチングやポジショニング、さらには安定したボールさばきなど、攻守両面で高い実力を兼ね備えている選手だ。またキャプテンシーにも溢れ、今季からFC東京を指揮する長谷川健太監督も彼を主将に任命。さらに今夏のロシアW杯でも韓国代表の副主将を務めた。
11月5日に発表された、オーストラリア代表ならびにウズベキスタン代表と戦う韓国代表のメンバー。先月まで招集されていたチャン・ヒョンスの名前はそこにはない。かつてポルトガル代表を率い、今年8月に韓国の指揮官に就任したパウロ・ベント監督はこう語った。
「チャン・ヒョンスが外れたことは、プレー面では明らかな損失になる。彼は技術的にも優れ、戦術理解も高い。プレー以外でもチームを支えていただけに残念だ。ただ、今回のような決定を(自らが)外国で生活する者として理解し、尊重しなければならない」
「自分はサッカーを愛しています」
本人も自省と自戒の心のもと、出直しの一歩を示した。それが、騒動直後の試合となった横浜FM戦でのゴールと勝利。言葉には、まだまだ強さをこめることはできず、ショックの大きさは計り知れなかったが、チャン・ヒョンスはこちらの目をしっかりと見つめこう話した。
「今日は応援してくれているファンやサポーターの方々に申し訳ない、反省の意味も込めてプレーしていました。複雑な思い、苦しい思いもありましたけど、勝利に向けて精神的なコントロールをしながら試合に勝てたことは大きなことだと思います。これからは一生懸命サッカーを練習し、試合に臨むしかないと思います。自分はサッカーを愛しています。その気持ちを忘れずに、もっともっと精進していきたいです」
ゴール直後は喜ぶ素振り一つ見せずに反対側のFC東京サポーター側にまで走っていき、頭を下げた。勝利の瞬間も顔を上げ咆哮するのではなく、まるで敗者のようにひざに手をつきうつむいた。注がれる温かい拍手に涙し、そして何度も何度も頭を垂れていた。
人間には過ちはある。その度合いに大小はあるかもしれない。彼が韓国人として生まれ育った以上、今後も母国の厳しい世論にさいなまれるかもしれない。そして、そのすべてを受け止めることしか、彼には道は残されていないのかもしれない。
ただ、一人の青年が生きる人生、そして一人の才能あるサッカー選手としての可能性は、まだまだ残されている。たとえ過ちを起こした者でも、それは誰にも潰えさせることのできない、彼にしか歩むことのできない生きる道なのである。
至らなさを潔く認め、苦しさを残り越え、再び信頼を勝ち取っていく。その実現が、チャン・ヒョンスの切り開く道に、まだまだ光を与えていく。