静岡書店大賞という賞をご存じだろうか。芥川賞や直木賞といった専門家が決める文学賞や、全国の書店員が選ぶ大規模な本屋大賞と比べると、手弁当で、手作り感あふれる静岡ローカルの若い賞だが、その地道な活動が評価され、静岡県内の書店、図書館、本好きはもとより、全国の書店員や出版社の間で、知る人ぞ知る活動に育っている。神奈川本大賞(紀伊國屋書店横浜みなとみらい店、北野書店の記事参照)スタッフも、先輩として、目標として、隣県の静岡書店大賞を見ていると聞く。
そんな静岡書店大賞のお話を聞きたくて、静岡県浜松市の谷島屋浜松本店を訪ねた。
谷島屋は、浜松市内に1872年に創業。静岡市にMARUZEN&ジュンク堂書店がある以外に、全国チェーンがあまり入っていない静岡県内で、最も多くの店舗を展開する老舗書店チェーンだ。浜松本店は、チェーン内でも最大規模を誇る旗艦店で、浜松駅ビルメイワンの8階のワンフロアを占める。
印象的な天井照明、吹き抜けの空間、広めの通路、木目調の書棚、落ち着いたインテリア、コーヒーの香りの漂う店内は、取材日は休日の午後でかなり賑わっていたにもかかわらず、クジラの腹に抱かれたようにゆったりしていて、気持ちよく本を選べる雰囲気だった。
創業140年以上という歴史と伝統は重い。両親も、おじいさんおばあさんも、その前の世代も、お小遣いを握りしめて谷島屋で雑誌を買い、谷島屋の供給する教科書で勉強し、谷島屋の本で育ってきたのだ。マンガや文芸書、実用書はもちろん、学習参考書やビジネス書、専門書の棚も充実している。浜松市民は、谷島屋で本を買って勉強し、仕事で必要な本があれば、谷島屋に買いに来るのだ。その伝統に安住することなく、「7階の食堂街のお客様に8階まで来ていただくにはどうしたらいいだろう(クジラの腹はそのための工夫)」、「ぜったい面白いのだから、手に取ってもらうには(ちょこっとオススメ文を)」、「子どもたちにもっと本を読んでもらうには(これが静岡書店大賞につながる、後述)」……店頭で常に新しく試行錯誤し、チャレンジし、発信している。