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出稼ぎ労働者の月収の多くは北朝鮮に流れている

 私はウラジオストク滞在中、沿海地方の朝鮮協会会長のヴァレンティーン・パク氏と面会した。彼は、プーチン政権に通じ、まさにロシアと北朝鮮の「パイプ役」で、今年5月には人道支援と称して食料を緊急輸送している。日本人のインタビューに応じるのは初めてのことだ。

「ロシア企業は月給として北朝鮮労働者一人当たり、平均して6万ルーブル(約12万円)ほどを支払っています。ただ詳細は知りませんが、労働者の手取りは1万ルーブル(約2万円)のようです。でも、祖国で暮らすには十分なお金です」

朝鮮協会会長のヴァレンティーン・パク氏(右)

 パク氏はロシアと北朝鮮の具体的なやり取りについて言明しなかったが、月給の大半は北朝鮮政府が徴収しているのは間違いないようだ。ロシア全土では約2万4000人の北朝鮮労働者がロシア移民局に登録されているようだが、闇労働を含めると実態は不明だ。ウォール・ストリート・ジャーナルは、「北朝鮮の労働者は金政権に年間で最高20億ドル(約2200億円)の収入をもたらしている」(2018年8月3日付)と報じている。

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筆者の指摘に対し、回答につまるパク氏

二枚舌外交を展開するロシア

 北朝鮮は2017年7月、大陸間弾道ミサイルの発射実験に成功したと発表。9月には水爆実験を断行した。国際社会は猛反発し、12月に国連安全保障理事会は厳しい経済制裁を採択した。賛成にまわったロシアや中国が制裁決議を遵守すれば、北朝鮮の経済は疲弊し、体制崩壊も現実味を帯びるはずだった。

 しかし、先のウォール・ストリート・ジャーナルは、「ロシアが新たに多数の北朝鮮労働者を受け入れ、国連安全保障理事会の制裁決議に違反している可能性がある」と報じ、「昨年9月以降、1万人以上がロシアで新たに登録された」と伝えた。ロシア政府は国連の経済制裁に基づいて北朝鮮労働者の流入は減少傾向にあると発表しているが、どうやら二枚舌外交を展開しているようだ。

 経済的にも、歴史的にも深いつながりをもつロシアと北朝鮮。そしてそれを結びつける舞台となったウラジオストク市で、プーチン氏から平和条約を提言された安倍首相は、果たして「蚊帳の外」に置かれずにリーダーシップを発揮できるのだろうか。

安倍首相は「戦後外交の総決算」ができるか ©時事通信社

 余談だが、ウラジオストクを巡っては、もう一つの「歴史的」役割があった。

 北朝鮮と韓国の首脳会談が初めて開催されたのは2000年だったが、じつはその10年もまえから出稼ぎの北朝鮮人と韓国からのビジネスマンがウラジオストクで接触できる状況が生まれていた。ロシア(当時はソ連末期)が、韓国と国交回復を遂げたからだ。この機会をとらえて両国民の仲介者となったのが、ソ連時代に中央アジアに強制移住させられた高麗人(南北分断前の朝鮮人)だった。彼らは朝鮮語を話し、中央アジアからウラジオストクに移り住み、南北の離散家族の情報交換や生活用品の調達など民間交流を支えた。ウラジオストクは、南北初の首脳会談の実現を可能にした、歴史的な街でもあったのだ。

 プーチン氏と金正恩氏の“蜜月”を今後も注視していく必要がある。

写真提供=中村逸郎氏