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本屋から生まれる作家と読者の新しい関係 絲山房

2016/07/09

genre : エンタメ, 読書

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 紀伊國屋書店新宿本店の今井さんに絶賛オススメされた『離陸』を読んで以来、気になる作家さん、絲山秋子さんが、最近、本屋さんの中に絲山房というスペースを作ったというので、取材に行ってきた。

 前橋市の郊外、利根川河岸の敷島公園に隣接する絵本屋、フリッツ・アートセンターの中に絲山房はある。近くには、敷島公園内のバラ園や萩原朔太郎の生家を移築した記念館、運動施設や緑や水辺があり、前橋市民の憩いの場として親しまれている。近隣には大学もあり、おしゃれなカフェや雑貨屋もあるエリアだ。訪問した日は、松林を渡る風がさわやかな梅雨の晴れ間だった。

松林が広がる敷島公園。
フリッツ・アートセンター。緑の中に赤いフレームが印象的。
絵本とアートの本。詩集や写真集も充実。

 フリッツ・アートセンター絵本屋は、ギャラリーを併設した絵本メインの本屋さんで、フランスの人気絵本「タンタン」シリーズのショップ「TINTIN BOX」を併設している。タンタンのオフィシャルショップは、全国に、東京と京都と、ここ前橋にしかないとのこと。絵本の品揃えは、「タンタン」のものはもちろん、定番名作絵本から子どもたちに人気のシリーズから、エドワード・ゴーリーのちょっと不気味な絵本や、飾っておくだけでもアートとして存在感のあるショーン・タンの絵本など、大人にも充分楽しめる。長田弘や和合亮一、荒木経惟、土門拳、ブルーノ・ムナーリ、エリック・ホッファーといった、詩集や写真集、アートや哲学の本も選書が面白い。というか、好みだ。

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フランスの人気絵本「タンタン」シリーズのオフィシャルショップ。

 フリッツ・アートセンターは、絵本屋だけでなく、ポスターやポストカードの販売、アンティーク家具の販売、ギャラリー、棚の貸し出しによるセレクトショップ、映画館の運営など、幅広く前橋の地でアートにかかわる活動をしているという。

 小説家としても、前橋や高崎のラジオ局でパーソナリティとしても活躍している絲山秋子さんが、ツイッターで全国の書店員さんと交わしたやりとり「公開書簡フェア」(後述)を見たフリッツ・アートセンターの小見純一さんから「ウチでもなにかやりませんか」と声がかかったのが書店内書店、絲山房の始まるきっかけだったそうだ。

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