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本屋から生まれる作家と読者の新しい関係 絲山房

2016/07/09

genre : エンタメ, 読書

note

きっかけは、書店員とのツイッター

 フリッツ・アートセンターから「ウチでもなにかやりませんか」と声がかかったのは、ツイッターでの書店員とのやりとりがきっかけだった。私も、渦中の書店員さんのいる、あゆみBOOKS小石川店の取材をしたばかりだったので、ツイッター上のやり取りを鮮明に覚えている。ツイートの「まとめ」が残っているので、それに沿ってたどってみよう。昨年(2015年)の大晦日に、あゆみBOOKS小石川店がツイッターで「本作りのプロセスを可視化する」と投稿したのに対して、絲山さんが「著者側の情報なら提供しますよ」と反応したのがはじまりで、「公開書簡的なものとか楽しそうですよね」、「公開書簡つき絲山秋子全点フェア」、「書店に行くと、書店員さんと絲山の手紙のやりとりを見ることができる」と、とんとん拍子に進んで、それならウチもやりたいと、リブロ福岡天神店、大盛堂書店が手を上げるまでは大晦日のうち、1日経っていない。最終的に全国で10店舗と同時並行的に手紙をやり取りし、関連書を並べた「公開書簡フェア」がそれぞれの店でスタートするまで約2週間、そのスピード感と何かが起こっているドキドキは、まとめを読み返しても蘇ってくる。

 スタートから約半年の先月、公開書簡フェアを振り返る形で、文禄堂高円寺店でトークイベントがおこなわれた。遠隔地で、ツイッターから同時多発的に始まったため、今回、各地の書店員同士はもちろん、絲山さんともイベント会場で初対面という書店員も多かった。それぞれの店でどのようにフェアに参加し、手紙を展示し、売り場を作ったのか、ネットとリアル、作り手と売り手がつながったいいイベントだった。この往復書簡は、近日中に電子書籍として発行され、印税は大分・熊本の地震被害へ寄付されるとのこと。

 絲山房という試みは、まだ始まったばかりだ。絲山さんのラジオ・パーソナリティ的な資質、書店員さんと築いてきた関係、地元の本屋さんフリッツ・アートセンターという環境から生まれた希有な例とも言える。だが、新しい本の売り場が、書店員のひと言に端を発し、作家と本屋の間に創発的に広がったフェアがきっかけで誕生したことは、本と本屋の未来につながる象徴的な事件だったと、後から振り返ることになるかもしれない。

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公開書簡フェア記念トークイベント、文禄堂高円寺店にて。
中央が絲山秋子さん、右端が元あゆみBOOKS小石川店(現在は関係会社に出向中)の有地和毅さん。
絲山秋子さん、『子どもの本を読む』とともに。

【本の話WEB読者にオススメ】

 絲山秋子さんのオススメ本は、河合隼雄さんの『子どもの本を読む』(岩波現代文庫 〈子どもとファンタジー〉コレクション)。本屋さんに行くと、まず児童書売り場をチェックするという絲山さん、絲山房の選書コーナーにも置いている。公開書簡フェアの手紙の中で、この本に触れたところ、店頭で手紙を読んだ読者から、「今読んでますよ」という反応が返ってきたという。

絲山房(フリッツ・アートセンター内)
住所 群馬県前橋市敷島町240-41(敷島公園内)
営業時間 11:00~19:00(月)、~20:00(水/木/土/日)、~21:00(金)
(火曜定休、火曜日が祝日の場合、翌日休)
 絲山さん在房日時は不定期、絲山房ツイッターなどでお知らせがある場合もあります。
URL フリッツ・アートセンター http://www.f-ritz.net/
絲山秋子Official Web Site http://www.akiko-itoyama.jp
Twitter 絲山房 
https://twitter.com/itoyamabow

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