俳優の柄本佑がきょう12月16日、38歳の誕生日を迎えた。折しも昨日には、彼が1年にわたり準主役の藤原道長を演じ続けてきたNHKの大河ドラマ『光る君へ』の最終回が放送されたばかりである。

柄本佑 ©文藝春秋

 昨夜の最終回では、道長が死の床に就くと、彼の嫡妻の源倫子(黒木華)のたっての願いで、吉高由里子演じる主人公の紫式部(劇中での名前は「まひろ」)が見舞う。そこで道長は、もう物語は書かないと言うまひろに「物語があれば、それを楽しみに生きられるかもしれんな」と所望すると、彼女は翌日より新たにつくった物語を夜な夜な語って聞かせ始めた。それは幼い頃のまひろと道長を主人公に、二人の思い出を込めたものであった。

 最期の日々を迎えた道長はもはや話すには声を振り絞るようにして出さねばならず、だんだん言葉数も少なくなっていくなか、柄本はほぼ表情だけで、昔を懐かしんだり、まひろとの別れを惜しんだりするかのような心情を表現してみせ、その演技力に驚かされた。

ADVERTISEMENT

柄本は道長の最期を演じるため1日で4キロ落としたという(NHK『光る君へ』公式インスタグラムより

 柄本は演じる役の幅広さからカメレオン俳優とも称されるが、筆者には、作品に合わせてクルクル色を変えるがごとき役作りほど彼と程遠いものはないように思われる。むしろ柄本は、今回の道長の役にしてもそうだが、大げさな演技を極力排し、どんな役も一定のテンションで演じてきたという印象が強い。彼自身、究極の目標として、往年の名優である小林桂樹や殿山泰司のように芸達者でありながらさり気なくて、いかにもな演技をしない俳優に憧れているようだ。

柄本明、安藤サクラ…“俳優だらけ”の親族たち

 思えば、彼の父親で俳優の大先輩である柄本明もまた、ポーカーフェイスでさまざまな役を演じ分けてきた。1991年の大河ドラマ『太平記』で主人公・足利尊氏の執事・高師直を演じたときも、その表情からは何を考えているか読み取れず、不気味だったのが強烈に記憶に残っている。

柄本明 ©文藝春秋

 柄本はそんな父・明と、彼の主宰する劇団東京乾電池の看板女優で2018年に亡くなった角替和枝とのあいだに生まれた。周知のとおり弟の柄本時生、2012年に結婚した妻の安藤サクラ、彼女の父親の奥田瑛二も同業であり、さらに義姉の安藤桃子は映画監督で、柄本によれば「映画が観たい!」と叫んで大学を辞めたという実姉も映画制作の仕事をしており(『テレビブロス』2009年3月21日号)、まさに芸能一家である。

親子で一緒にピンク映画を鑑賞したことも

 家ではいつも両親が子供そっちのけで映画の話をしていたので、柄本も会話に入りたい一心で映画を見るようになったらしい。とくに父は口下手なので、映画を介してでないと会話が成立しなかった。柄本が18歳になり、成人映画が観られるようになった頃には、知り合いの監督からもらったピンク映画の名作のDVDを、父を誘って家で一緒にゲラゲラ笑ったりしながら観たこともあったという。その様子を帰宅した母に見られてしまい、「誘うあんたもあんただし、一緒に楽しんでるおまえ(父)もおまえだ」とさすがに怒られたとか(『CREA』2020年7月号)。