もっとも、安藤とは、婚約中に義父の奥田瑛二の監督映画『今日子と修一の場合』でW主演したほか、結婚後もたびたび共演してきた。直近では、CSの時代劇専門チャンネルで放送・配給され、長らく時代劇を撮り続けてきた井上昭監督の遺作となった映画『殺すな』(2022年)で、駆け落ちして人目を忍んで暮らす男女を演じている。
妻・安藤サクラとの“特殊”な関係性
柄本たちと同世代にも俳優夫婦は多い。しかし、二人のように結婚後も共演を続けるケースは珍しい。それは、多くの俳優のなかには照れという以前に、劇中で演じている姿に私生活のイメージを結びつけられることへの懸念があるからなのかもしれない。
『殺すな』の柄本と安藤はさすがに上手で、二人とも物語のなかの人物を、それぞれが抱えた背景までうかがわせるように見事に演じきっている。それでも時折、仕事から帰った柄本を安藤が夕食をつくって待っていたりと私生活を匂わせる場面もあって、ちょっと生々しさも感じさせる。
当の柄本も、自分たち夫婦はどうも特殊らしいということは自覚しており、《うちは役者夫婦にしては希有なパターンらしいんですよ。佐藤浩市さんに言われたのですが、俳優同士の夫婦は仕事の浮き沈みでの嫉妬がありがちだけれど『お前たちはうまくいっていて気持ち悪いな』だそうです(笑)》と語っていたことがある(『クロワッサン』2021年8月25日号)。
夫婦で大切にしているのは…
妻の安藤は、《私と佑君はお互いのことに踏み込まないんです。家の中での過ごし方もそれぞれで、その距離感は大切にしています。特に子育てが始まってからは夫婦や親子であることに捉われずに、暮らしています。だってせっかく大好きな人が誰よりも近くにいるのに“夫婦”とか“親子”という関係だけじゃもったいないじゃないですか》と語っているが(『フィガロジャポン』2022年3月号)、それが夫婦がうまくいっている秘訣なのだろう。そうしたスタイルも元をたどれば、お互いに干渉しない柄本家から彼女が学んで、《私がエモトナイズされた結果かもしれません》という(同上)。
前出の『殺すな』には、柄本が映画の世界に憧れるきっかけとなった勝新太郎の妻・中村玉緒が特別出演していた。勝もまた、父親が長唄三味線方の杵屋勝東治、妻だけでなく兄の若山富三郎も俳優という芸能一家の一員だったが、ときに世間の常識を踏み外すほどの豪放磊落ぶりで鳴らした点で柄本とは異なる。
時代が違うから、と言ってしまえばそれまでだが、柄本の場合、生活あってこその仕事という意識が強い。そこには、彼がデビュー映画の撮影ですっかり現場の楽しさを知って学校がつまらなくなっていたとき、母・角替和枝から言われたという「いま楽しいのはいいけれど、そのうちきっと、現場がしんどくなるときがくる。だから学校生活を大事にしなさい」との言葉が生きているようだ。


