日本では、2019年10月に実施予定の消費税10%への引き上げに際し、ポイント還元制度をつくって中小商店でのカード払いの普及を図るという。かつて「旅行に行くときは必ず現金をもっていくように」と言われていたギリシャでは、2年前にすべての買い物でのカード支払いを義務にした。違反した場合は1000から5000ユーロ(約13万~65万円)の罰金、悪質な場合は営業停止になる。
現在、私が暮らすフランスでも、店で現金は1000ユーロまでしか使えない(非居住者である旅行者は1万ユーロまで)。もっとも、ギリシャの措置の理由は、消費税にあたる付加価値税の脱税を防ぐためだ。直接現金払いで課税を逃れていた額は年に80億ユーロ(1兆円)にのぼるという。フランスもマネーロンダリング対策だというが同じ狙いがあることは間違いない。
ある日突然、ATMに現金を入れられなくなった
理由はどうあれ、キャッシュレス社会が進んでいるのはまちがいない。だが、フランス在住40年あまりの私は、最近その落とし穴に気づかされる「事件」に遭遇した。この夏、私が、口座のある大手銀行の支店のATMに現金を入れようとすると「この操作はできません」。もう一回やっても同じ画面が繰り返し表示されるのだ。
フランスの銀行は、オペラ街やシャンゼリゼのような都心の支店を除いては、コンビニぐらいの広さしかない。窓口はなく、受付が1人か2人、あとは奥に相談室がいくつかあるだけだ。20年ぐらい前までは、小さな支店にもちゃんと窓口があって、現金の出し入れもしていた。いつの間にか窓口はなくなり、業務はすべてATMで客が自分で行うようになった。
何年か前、受付の人が特別なカードを使ってATMで入金してくれたことがあった。今回も同じように頼んだら、「できない」と言う。もうそのサービスもないのだという。そういうわけで、帰り道はスリにとられないように気疲れしながら現金を持ち歩くしかなかった。
受付の女性は、コンピュータで口座情報を見て、「手続きしましたからカードの不都合は1週間したら直ります」と言う。1週間後、銀行へ行ったがまた現金を入金することができない。この日は、受付にもう1人若いスーツ姿の行員もいて、2人でコンピュータの画面を睨んで「おかしいな」と言うばかり。
と、その翌日、この支店長名で書留がきた。