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「あなたの口座を閉鎖します」40年パリに暮らす私が遭遇した“落とし穴”

2018/11/28
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「2018年X月XX日までにあなたの口座を閉鎖します」

〈口座閉鎖前の予告 我々は、関係を維持することはもはや適切ではないとお知らせします。したがって、本状の送付から2カ月、つまり遅くとも2018年X月XX日までにあなたの口座を無料で閉鎖します。(中略)閉鎖の日に残高不足が出ている場合には、15日以内に支払い義務が発生し、この赤字分については無断貸越の利子の完全な返済まで要求します。すみやかに、全ての支払い手段、とくに小切手帳と銀行カードを返す義務があります。口座を閉鎖した日付で、私たちは、あなたの口座に登録されている自動振替について、破棄通告します〉

「何じゃこりゃ?」と、電話すると担当者に回された。銀行には必ず担当者がいて口座をつくるときにも窓口で書類に書いて署名すればいい、というわけではなく、アポを取らなければならない。

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「書いてある通りです。もうあなたの口座は閉鎖するということです」。まるで、こんな簡単なフランス語が読めないのか、といった感じだ。面会を申し込むと、けんもほろろに「会う必要はありません。もう決まったことです」。理由は「先月あなたに2度電話したのに出なかった。留守電に入れたのにかけてこなかった。あなたは不誠実だ」。

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 電話を受けた覚えはない。携帯にかけたというから、履歴を確認したがそのような記録は残っていないし、もちろんメッセージも残っていなかった。

「もう決まったことです。あなたと話すことなんかない」

 とにかく銀行へ行った。ところが、担当者に取り次いでもらっても面会を拒否された。

 現金が入らなかったのは、このせいだったのだ。しかし、コンピュータではなぜそんな事態が起きたのか、行員たちにもまったくわからなかった。

 昨日から受付のところにいる新顔は研修中で、小声で「実は僕も口座を開けないんですよ。本採用になったら大丈夫だと思うんですけどね」。
  
 そんな話をしていると、支店長が客を送りに出てきた。いかにもエリート学校出というような30代半ばぐらいの女性だ。受付は「彼女が私の担当だ」と言う。支店長が担当するといってもべつに上客だからではなく、「その他大勢」だから十把一絡に扱っているのだ。

「電話で話したものですが」と言うと顔をしかめて、「もう決まったことです。あなたと話すことなんかない」。

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 取りつく島もないとはこのことだ。ぶっきらぼうなだけではなく、まるでこちらがクレーマーであるかのように見下され、露骨に嫌な顔をする。日本ではお役所にでも行かなければこんな対応はまずされないが、フランスでは民間でも普通の店でもよく起きることだ。こうなると埒があかない。わかっちゃいるが、こちらも、もう一度言い分を言うだけ言って腹の虫を収めるしかない。そうこうしているうちに入口から警備員が来て、これ以上話していると危ないような雰囲気になってしまった。

 なお、小さな支店なのに警備員がいるのは、このあたりは、観光スポットなので、スリがたむろしてATMから引き出した金を狙われることがあるからだ。私も一度巻き込まれそうになったことがある。