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母親と絶縁して32年、内田春菊が書いた「母への最後の苦情」

『ダンシング・マザー』を書き終えた今、想うこと

note

冷静ではいられなかった『ダンシング・マザー』の執筆

――母、主人公・逸子に冷静に向き合えたということですか。

内田 いや、そこにいたるまでに、第2部、私、静子が動き始めると、やはり冷静ではいられなかったですね。終盤の作業は、随所に吹き出してくる私の「怒り」、自分寄りになっている部分を抑制し、削っていくことでした。

 ですから、何人かの方から「リーダビリティがある」とか、「娘の静子が不気味で恐かった」という感想をいただいて、小説として評価されている、とガッツポーズしています(笑)。

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©深野未季/文藝春秋

母になりきることで、見えてきた自分

――「毒母」になって、発見されたことはありますか。

内田 はい、いろいろ思いあたりましたね。母もそうか、営業職で将来を嘱望されていた養父と不倫関係になったときには、恋愛初期のドーパミンを出していたはずで、ホステスである自分の隠れた資質を評価してくれる男性に出会えて嬉しかっただろうなとか。

 私は養父に対して反抗的だったし、扱いづらい子でした。母は、私のことを子分としてしか、どうやって自分の利益に結びつけられるかとしか考えられなかったんだと、あらためて思いました。自分も時代さえ許せば、と学校の成績がよかった私に嫉妬していたんですね。母、妹、私、それぞれに持っている資質が違っただけなのに。

 母になりきることで、自分が見えてきた。私の中の「毒」を吐き出せた気がしています。時間がかかったけど、書いてよかった。

 母が読んだら「違う!」と怒るかもしれませんが、本書はフィクションですから(笑)。

内田家の飼い猫トンちゃん ©深野未季/文藝春秋

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母親と絶縁して32年、内田春菊が書いた「母への最後の苦情」

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