「命を扱う以上、プライベートはどこかで犠牲にする必要のある職業だと思います。私は家庭より仕事を選びました」

 ある女性外科医が筆者に語ってくれた言葉だ。

 2018年8月、不正入試が発覚した東京医科大学で、女性受験者についても2次試験の点数を実質的に一律減点していたことが明らかになった。その背景には、医療現場で「戦力になりにくい」女性医師が増えないようにしたいという、前理事長をはじめとする経営陣の考えがあったと見られている。

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 確かに、女性医師は結婚、出産、育児などを契機に、一定期間、職場を離れることが少なくない。また、子どもの送り迎えがあると定時に帰る必要も出てくる。そのため、残業、休日出勤、宿直などが多い外科、産婦人科、救急などの診療科では、女性医師は歓迎されてこなかった。

 女性医師のほうも、仕事と家庭を両立しやすい、つまり残業、休日出勤、宿直が少ない皮膚科、眼科、麻酔科、病理診断料などの診療科を選ぶ人が多いと言われてきた。もし外科医としてキャリアを積もうと思うなら、冒頭の彼女のように、家庭(つまり結婚や出産)を諦めなければならない状況もあった。

『文藝春秋オピニオン2019年の論点100』掲載

 こうした現実があることから、東京医大の女子一律減点に理解を示す医師も少なくない。たとえば医師でタレントの西川史子氏はテレビ番組で、「医療現場では当たり前のこと」「(女性が増えると)眼科医、皮膚科医だらけになっちゃう」と発言し、物議を醸した。また、女性医師向けのウェブマガジンを発行する企業が実施したアンケートで「女性医師の6割が『東京医大の女子減点』に理解」を示したとの報道もあった(NHK2018年8月7日)。

 ただ、医療現場で家庭を犠牲にすることを強いられてきたのは、女性医師だけではない。とくに大学病院や地方病院などの勤務医は慢性的な人手不足で、厳しい勤務環境に置かれている。今回の出来事は「女性医師」だけではなく、「医師全体」の働き方の問題として、考える必要があるはずだ。