人口1000人あたりの病床数で見ても、先進国2位のフランスが6.3、ドイツが6.0、英国が2.9、米国に至っては2.8しかないのに、圧倒的一位の日本は、米国の4倍以上になる12.3もある(同)。一方で、1000人あたりの医師数は、ドイツ4.1人、フランス3.3人、英国2.8人に対し、日本は2.4人。(「OECD Health Statistics 2016」)。世界的に見ても決して多くない医師たちが世界一多い病院に散らばり、世界一多い病床数(入院患者数)を診ているのだから、勤務が苛酷になるのは当たり前なのだ。
一方で、第一線で活躍する医学部教授などに取材したが、「女性医師は戦力にならない」と言う医師は一人もいなかった。逆に、体力よりも繊細な技術が物を言う腹腔鏡手術やロボット手術の普及で、「これからは外科でも女性医師の活躍できる余地が大いにある」と語る外科医もいた。それだけでなく、16年には米国の高齢入院患者130万人のデータを解析した研究で、「女性医師のほうが男性医師よりも患者の死亡率や再入院率が低い」ことを示す論文も発表されている。医学部入試で女性を差別するのは、やはり時代錯誤と言わざるを得ない。
むしろ東京医大の問題は、日本のガラパゴス的な医療体制を根本的に見直すきっかけとすべきだろう。年間の国民医療費はすでに40兆円を超えている。闇雲に医師数を増やしても、人件費や過剰な医療が増えて、国民皆保険が破綻に近づくだけだ。それよりも欧米のように、医療圏ごとに必要な病院数や専門医数、家庭医数などを割り出し、適正に配置する施策を打ち出していくべきだろう。「持続可能な医療」の実現に知恵を絞れば、おのずと仕事と家庭を両立できる医療体制に変わるはずだと筆者は信じている。
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