そもそも医師の過重労働の問題が浮上したのは今に始まったことではなく、とくに近年では、「医療崩壊」が叫ばれた06年頃から、大きくクローズアップされるようになった。そのきっかけとなったのが、04年に「新臨床研修制度」がスタートしたことだった。医学部卒業後2年間の初期研修が義務化されると、それまで大学病院で専門的な研修を受けることの多かった新米医師が、多くの診療科を回る新方式の研修に実績のある市中の病院に流れるようになったのだ。
そのため、人手不足に陥った大学病院が、地方の関連病院に派遣していた医師たちを大学病院に呼び戻し始めた。その結果、今度は地方の病院が人手不足に陥り、少ない人数で残された勤務医が、ますます苛酷な勤務を強いられるようになった。06年頃から東京医大が入試で女性を一律減点し始めたのも、新臨床研修制度によって大学病院や関連病院が人手不足に陥ったことがきっかけだった可能性がある。
日本は病床数が多すぎる
こうしたことから、政府は08年頃より医師数を増やす政策に転換した。07年度まで7625人に抑えられてきた医学部の定員は、18年度に9419人まで拡大された。06年に27万7927人だった医師数も増え続け、16年には31万9480人となった。しかし、増員から10年以上が経ち、4万人以上も医師が増えたにもかかわらず、勤務医の過重労働はあいかわらず解決されていない。その第一の理由は、「病院が多すぎる」ことにあると筆者は考えている。
実は、日本の病院数は欧米諸国に比べて圧倒的に多い。14年の日本の医療機関数は8442施設で、先進国で圧倒的一位だ。フランス(2593施設)、ドイツ(1984施設)、英国(1595施設)はもとより、先進国2位で人口が日本の約2.6倍の米国でさえ、5710施設しかない(Espicom「The World Medical Markets Fact Book 2014」)。