スカウトも夢を見る。色々な夢を見る。それがドラフト会議直前となると不思議な夢を見ることがある。
2018年のドラフト会議で3球団競合の末、大阪桐蔭高校の藤原恭大外野手を千葉ロッテマリーンズは引き当てた。その瞬間に思い出したのは藤原選手担当の下敷領悠太スカウトの事だった。ドラフト6日前に行われた指名選手の球団方針を決める編成会議。若きスカウトマンが会議の始まる前にポツリとつぶやいた他愛もない会話が脳裏に蘇った。
「昨日、不思議な夢を見たんです。あんまり夢の内容とかは覚えていないタイプなんですが、これだけは鮮明に覚えていますね」
藤原と一緒に大阪桐蔭のグラウンドで
いつものように大阪桐蔭高校のグラウンドに足を運んだ。選手たちがグラウンドで練習をしている。お目当ての藤原恭大外野手に、同じく注目を集めている根尾昂内野手の姿もある。練習を見学していると、西谷浩一監督から手招きをされグラウンドに導かれた。
「せっかくお越しになったのですから、一緒に練習に入ったらいいじゃないですか」
気づけば大阪桐蔭高校のユニフォームを着ていた。藤原と一緒に走る、キャッチボールをする。
「やっぱりいい選手や!」
そう思った瞬間に目が覚めた。
今の夢はなんだったのだろう? 自問自答した。その答えは簡単に出てきた。ずっと藤原を追いかけてきた。惚れた。だから自然と彼の夢を見た。球団首脳、井口資仁監督らが集まる編成会議の中でのプレゼンテーションが待っている朝の事だった。強い決意がみなぎった。想いの丈をただ素直にぶつけることを決めた。
下敷領スカウトが惚れたプレー
中学校の時から名を馳せていた藤原。大阪桐蔭高校の練習に合流した1年の時からその姿は光って見えた。「体の線は細かったけど脚力と肩の強さは1年生の夏の時期でもひと際目立っていた。中学校の時から有名だったのは納得という印象だった」と下敷領スカウトは当時を回想する。高校2年のセンバツ大会決勝ではそれまでの不調がウソのように先頭打者本塁打を含む2本塁打。「大舞台で力を発揮できる選手」との印象が残った。
なによりも強烈な印象を残したのは高3夏の予選だ。初戦。1打席目の右前打で二塁を奪って見せた。「普通のシングルヒットがツーベースになった。怪我の影響もあって久々の公式戦。それでも脚力の凄さと勘の良さで二塁打にした。少し強引なプレーではあったけど積極的な走塁でチームに勢いを付けていた」(下敷領スカウト)。
そして今でも高校野球ファンの間で語り草となっている履正社との死闘となった予選準決勝は見ていて鳥肌が立つ思いがした。1点ビハインドの9回。二死から連続四球で一、二塁となった場面で藤原に打席が回ってきた。初球にフルスイングでファール。四球のあとの初球は狙うのがセオリーとはいえ、打ち損じれば甲子園春夏連覇の偉業が潰える場面での躊躇なき強打に超一流になる証を見てとった。「打ち取られると高校野球が終わる状況。あの場面でフルスイングが出来た藤原選手の精神面の強さと信念を感じました」。結果は四球もその後、後続が続き逆転。そこからイッキに夏の甲子園優勝への栄光の階段を上り詰めていく。
「口数の少ないところはあるけど、グラウンドでのプレーで自分を表現できる選手。頑固で自分の信念をしっかりと持っています」と下敷領スカウトは自分の子供の事を語るように褒めちぎる。