「ボクと言えば公開説教なんです」。2018年シーズン限りで現役生活にピリオドを打った大隣憲司投手は12年間の日々を振り返り、ターニングポイントとなった試合を語り出した。それは09年8月4日のマリーンズ戦(当時 福岡ヤフードーム)だ。

「マウンドで一塁を守っていた小久保さんに怒られたんです。あれがあったから今の自分がある。そしてファンの間でも自分のイメージは公開説教だと思う」

 打線は8点を援護。投げては13奪三振を奪う好投で9回を迎えた。リードは6点。誰もが大隣のシーズン初の完投勝利を期待していた。しかし、現実は期待を大きく裏切るものになった。あと3アウトの場面で3連打1失点。当時、中継ぎを務めていた攝津正投手が急きょマウンドに上がった。マウンドでうな垂れる大隣に怒声が飛んだ。「何回、同じことをやっとんじゃ!」。声の主はキャプテンを務めていた小久保裕紀内野手だった。

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「顔も見られないぐらい怖かった」。当時を思い出しながら大隣は振り返った。野手がマウンド上の2番手投手の周囲に集まる中、小久保はマウンドを降りベンチに向かう投手に近寄り、呼び止めて再度、諭した。それは一生忘れられない言葉となった。

今季限りで現役を引退した大隣憲司 ©千葉ロッテマリーンズ

自分の投球を見つめ直すキッカケに

「自分がどういうピッチャーなのか考えろと。自分の投球を見つめ直せと。確かに当時のダルビッシュやマーくん(田中将大)のようにストレートで勝負できる投手ではない。考えさせられました。変われるキッカケとなりました」

 3連打された場面。あと3アウトで試合が終わり勝利となる事を意識した挙句に投げ急いだ。ストレート中心の投球は単調となり、あっさり3連打。結局、この回は1アウトも取れずにマウンドを降りた。本来の大隣の投球スタイルは緩急。プロではカッコつけてストレート勝負を挑んで勝てるほど甘い世界ではない。先輩の檄が身に染みた。そして自分の投球スタイルを徹底的に追求することを決意した。

「ただ怒られたわけではない。己の投球スタイルをもう一度、見つめ直せと怒ってくれた。野球に限らず人間って案外、自分の事が分かっていない。どこかカッコよく見せたいと思っているし過大評価をしたりしている。野球でいえば、意外と自分の投球スタイル、どういう選手なのかが分かっていない選手が多いと思う。ストレートピッチャーだと思い込んでいても周囲はそうは思っていないことはある。そういう意味では自分はあそこで公開説教をしてもらって変わった。モデルチェンジした。変われるキッカケとなった」