6月30日、とにかく日差しが強く暑かった。和歌山県西牟婁郡上富田町。おいしい水で有名なところだ。そこに上富田スポーツセンターというスポーツ施設がある。たまに阪神タイガースがウエスタンリーグの公式戦を行ったりする。そこでBASEBALL FIRST LEAGUE(以下BFL)選抜と読売ジャイアンツ3軍との交流戦が行われていた。
抜けるような青空の下、試合が始まった。巨人3軍は桜井俊貴が先発。まさか上富田まで来て桜井を見るとは思わなかったが、力のあるストレートで凡打の山を築いていく。対するBFL選抜は先発が三山篤郎。ん? 誰だ? ああ、最近兵庫ブルーサンダーズに支配下登録されたってホームページに載ってるな。最近登録されてもう選抜入りなのか。へぇ、防御率1位(その試合当日時点)なのか。ほー、すごいなぁと思いながら見ているうちにあれよあれよと巨人打線を斬っていく。熱中症になりそうな日差しとは真反対に、涼しげに表情を変えることなく投げていく。ストレートが四隅に決まり、変化球の出し入れが巧み、という印象だった。
そしてイニング間の球場アナウンスにより球場中がどよめくことになる。
「さあ、好投している三山投手、なんとまだ17歳なんです!」
じゅ、じゅうななさい?! 嘘だろ、なんでこんなに飄々と投げられるんだ!
スタンドでジャイアンツのユニフォームを着ているファンの人たちも一様に驚いていた。なんならベンチの巨人ナインも完全に面食らっていた。
巨人3軍相手に堂々たる投球を披露した17歳の正体
三山篤郎。2001年の早生まれ、21世紀生まれ。大阪偕星高校の投手だったが、野球部を辞め、兵庫ブルーサンダーズに入団した、という経歴だった。
その17歳は5回1失点という先発としては十分すぎる結果を残した。高校3年生が3軍とはいえプロ相手に投げてこの結果は残せるものだろうか。すごい、すごい投手がBFLにいるぞ! と胸が高鳴った。暑さを忘れて食い入るようにその一挙手一投足を見ていた。
例えば甲子園の決勝で投げた吉田輝星が、柿木蓮が、今巨人3軍を相手に投げたらどうなるのかなんて誰にも想像できない。でも目の前の17歳は物怖じせずにバンバン腕を振っている。大したものだ。
BFLには他にも18歳以下の高校在学中の選手が数名在籍している。三山の後を受けて投げた黒田優斗もまた高校生だった。1回無失点。
その後、三山はBFL選抜で横浜DeNA相手にも好投する。しかしその後しばらくしてパタッと三山の情報が途絶えた。どうやら右肘を痛めたということらしい。しばらく投げなかった。
その間、試合のスタッフとして働く三山を見た。でかい。間近で見るとでかい。同じチームの野手よりでかい。肩幅も体つきも17歳のものとは思えなかった。
「おしっこに行きたい!」。息子が不意に叫んだ。「おう、おしっこやったらその辺でやったらええやん」。球場の前にいた三山が言う。一斉に先輩たちのツッコミを浴びる。そうして笑って先輩たちと過ごす姿はその辺の17歳と大差ないな、とも思った。このギャップ、たまらない。
復帰したのは9月下旬。チームは最下位。チャンピオンシップ進出をかけて負けられない状態だった。そこから三山は閉幕まで3連投し3連勝する。いずれも長いイニングを投げてたが、それでも負けなかった。チームを2位に押し上げ、チャンピオンシップ進出に導いた。この過程で、兵庫ブルーサンダーズは完全に「三山中心のチーム」になっていった。