人目もはばからず泣き崩れた三山
田辺市で行われた和歌山ファイティングバーズとのチャンピオンシップ。兵庫は勝てばもう1戦できる。負ければそこで終わり。きっと三山は投げるに違いないと私も田辺市へ向かった。
4点リードの6回、満を持して三山が登板する。しかし、二死を取ったところで和歌山の4番松浦仁にホームランを浴びる。松浦も巨人との交流戦で2本のホームランを打った強打者だ。3点差。次の回も三山が投げる。だが、ホームランで勢いづくスタンドの空気に次第に三山が飲まれていく。あの三山がストライクが入らない。焦ったのかバント処理もミスしてしまった。ここで初めて焦りみたいなものが顔から見えた。さらに無死満塁からタイムリーと犠飛で1点差。
監督の鈴木伸良と内野手たちがマウンドに集まる。マウンドに集まる三山より年上の選手たちは笑っていた。お前で打たれるなら文句はないよ、と言っているような感じだった。さながら、甲子園のように。
その後、二死満塁で再度松浦に打順が回ってきた。三山の投げた渾身のボールを、松浦が引っ張り込んだ。打球はファーストの松本聡の下を抜けた。逆転。歓喜に沸くスタンドをよそに三山は顔色を変えず、次の打者を打ち取った。ベンチに戻った後、三山の顔は真っ赤だった。そのまま試合を一心に見つめていた。
結局兵庫は再逆転をすることができず、敗戦。和歌山の優勝が確定した。マウンドではしゃぐ和歌山ナイン。その横で整列する兵庫ナインの中、三山は人目もはばからず泣き崩れた。ベンチに戻っても泣き続けていた。その大きな肩には疲労やプレッシャー、そしてチーム全員の思いが乗っていた。その肩を先輩たちに支えられながら17歳のプロ1年目が終わった。
その試合の後、私はたまたま帰り道のパーキングエリアで兵庫の選手たちと鉢合わせた。そこには食券売り場で何を買おうか迷ってウロウロしている17歳がいた。試合後2時間近く経っていた。気持ちは切り替わったのかな。いっぱい食べてまた元気に投げるところを見せてくれよ。そう思って遠くから眺めていた。
三山の1年目は8勝2敗2セーブで最多勝。来季は15勝を目指し、ドラフト指名を狙うという。21世紀生まれの右腕がNPBで大暴れする日はそんなに遠くないはずだ。またNPB相手に飄々と投げてあっと言わせてやってほしい。
■12月4日、BASEBALL FIRST LEAGUEは関西独立リーグに名称変更したと発表がありました。
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