子どもたちのために何かできないかとずっと考えていた。
中日ドラゴンズの未来のために何かできないかとずっと考えていた。

 3月20日、熱烈にドラゴンズを応援する放送作家のチャッピー加藤さん、ライターのカルロス矢吹くんという頼もしい仲間たち(僕も含めて3人は徒歩で集まれるご近所さんだ)と、たくさんの人たちの協力のおかげで、全ページにドラゴンズ要素がみっしり詰まった小学生向け学習参考書「ドアラドリル」シリーズ全4冊を世に送り出すことができた(著者名義はドアラドリル製作委員会)。SNSを見ていると大変好評をいただいているようでとてもうれしい。

 ここでは「ドアラドリル」刊行まで、僕たちがどんなことを考えていたか、どんな経緯があったかなどについて、著者グループを代表して記しておきたいと思う。

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ドアラドリルかん字 小学1年生

見なくなってしまったドラゴンズキャップ

 2015年、横浜DeNAベイスターズは神奈川県内の子どもたち72万人にベースボールキャップをプレゼントした。今年は横浜市内の赤ちゃん3万人にオリジナルの絵本を配布するという。ベースボールキャップや絵本をもらった子どもたちの何分の一かは、いつかDeNAを応援するようになるだろう。球団による未来への投資である。素直にものすごくいいなぁ、と思った。この数年、いや十数年にわたって、ドラゴンズのキャップを被っている子どもを見る機会が極端に減っていたからだ。

 DeNAと同じようなことがドラゴンズでできないかと考えてみたが、莫大なお金がかかるし、そもそも僕は球団の人間じゃない。一介のフリーライターの手にはとても負えそうになかった。

 ドラゴンズが何もしていないわけではない。シーズンオフ、ドラゴンズの選手たちは積極的に小学校や病院に出かけて子どもたちと交流している。大野奨太選手は小児がんの子どもたちを支援するクラウドファンディングを立ち上げた。どれも素晴らしい活動だ。

 ところで、僕には今年の4月に小学2年生になる娘がいる。この子と一緒にドラゴンズを応援できたら、どんなにいいだろう。一緒に球場に行き、一緒に選手に声援をおくり、一緒に一喜一憂する。そんなの楽しいに決まってる。

 しかし、最近の小学生はとても忙しい。習いごともあれば、娯楽もたくさんある。おまけに僕たち一家は東京に住んでいる。娘にドアラグッズなどを買い与え、東京ドームや神宮球場に連れていき、巨人のポスターを見れば敵だと認識するようにもなった。だけど、娘を通して、昔と違って子どもが自然にプロ野球の、あるチームのファンになるとは限らないのだと知った。ドラゴンズのお膝元の名古屋だって小学生を取り巻く環境はそうは違わないだろう。やはり何か考えなくちゃいけない。僕たちに何ができるだろうか……。

ドアラドリル算数 小学1年生

実用性にこだわった「ドアラドリル」

「ドアラドリル」のアイデアが生まれたのは昨秋のこと。チャッピー、カルロス、くまおの3人が毎日ドラゴンズの話題だけをやりとりし続けているメッセンジャー(そんなのがあるんですよ)で、ふとした会話からドリルの企画が持ち上がった。

「小学生が必ず目にするものといえば“教材”じゃない?」
「そう言われてみれば、『攻撃』『敬遠』『防御率』なんて、ちょっと難しい熟語も、大好きな野球を通じてなら、スッと覚えられた」
「今の子どもたちに同じような体験をさせてあげたら、勉強もドラゴンズも大好きな子になると思う。一石二鳥だ」
「それだ!」

 さっそく名古屋の編集プロダクション、ネオパブリシティに連絡をとった。代表の五藤さんは社名を「根尾パブリシティ」に変えようかと検討するほどの熱烈なドラゴンズファン。トントン拍子に話が進み、版元が東京ニュース通信社に決まり、名古屋の名門学習塾、名進研の監修が入ることも決まった(監修の先生も大のドラゴンズファン)。そして五藤さんの粘り強い交渉の末、ドラゴンズ球団から出版の正式な許可が下りたのは、すっかり年が明けた頃だった。さあ時間がないぞ。

 こだわったのは実用性だ。たとえば小学1年生では「田」という漢字を習うが、「ひら田せん手」という問題文はつくらなかった。選手の名前は学校のテストに出ないからだ。「音」という漢字があれば、思わず「音スカウト」とか「れんしゅうで音を上げる」と書きたくなるが、前者はテストに出ないし、「音を上げる」という慣用句は小学1年生では習わないから使わなかった。

 僕の娘は年相応に漢字も書けるし算数もできるが、間違いも多い。問題のレベルも問題文の言葉づかいも彼女が無理なく理解できるようなレベルを基本に置いた。算数はいつも文章題で苦労していたので文章題を多めにした。問題文に登場する選手や扱われている事柄のことを知らない可能性はあるが、それは親きょうだいに「これって、なんのこと?」と聞いてもらいたいし、聞かれたらぜひ教えてもらいたい。「ドアラドリル」は家族のコミュニケーションツールにもなるよう設計されている。

 チャッピーさんとカルロスくんも一度共有してしまえば、どんどん問題文を仕上げてきてくれた。締切直前には、朝5時にメッセージを送ると15分後には返事が来た。デザイナーさんたちも総力戦だ。結局、すべての作業が終わったのは沖縄キャンプ見学のためにやってきた北谷のホテルでのことだった。