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僕らとは違う側で野球をしている巨人と戦った日本シリーズ

 で、話はいきなり2012年日本シリーズにジャンプする。ファイターズはダルビッシュが流出し、栗山・新監督がコーチ陣を前任者から引き継いで臨んだシーズンだった。はっきり言えば前評判を覆して、みごとに勝ち抜けた年だ。球場観戦的には吉川光夫や武田勝といった投手たちの活躍を見に行くのが楽しみだった。

 日本シリーズの相手はジャイアンツになった。1981年、2009年と二度苦杯をなめた仇敵。今度こそ勝ちたい。だってジャイアンツは、僕らが失ったホームでずっと野球をしている。パラレルな世界だ。例えば打ち上がった9回2死の内野フライ。捕球した世界と落球した世界。とにかく僕らとは違う側で野球をしている。

 今度こそ勝ちたいな。

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 ところが、日本シリーズは思いも寄らぬ展開になった。投手陣はシーズン通りの活躍とはならず、逆に相手方にはシーズンと見違えるような活躍をする選手が出た。クライマックスシリーズでの圧倒的な勝ちっぷりからすると、何か騙されてる気分だった。

 あぁ、今度も巨人相手にやられてしまうのかな、前回感じた選手層の差以上に、今年は流れが悪かった気がする。

僕らの希望 若き4番打者・中田翔

 第6戦もあっという間の3点ビハインドで6回表、ようやく2人が出塁した。バッターは中田翔。空気が蒸し暑い。僕は変われなかった。変わりたくなかったのかもしれない。レフトスタンドの右中間寄り、やっぱり東京ドームにいた。

 カキィーン。中田翔の打球は、理想的いい角度で飛んできた。こっちに向かって飛んでくる。中田の打球が理想的いい角度で上がったときの、球場全体の体温の上がり方のすさまじさ。それがいちばんわかるのは左翼ポールぎりぎりファールになったときの落胆だ。ガッと上がってシューンとしぼむ。その温度差こそ中田が跳ね上げた体温だ。

 レフトスタンドは歓喜に包まれた。同点だ。中田翔同点3ラン。もしかしたら僕らはここからまだ行けるのか。もしかしたら僕はまだ行けるのか。この若き4番打者こそが希望だ。第2戦の死球交代のダメージを感じさせなかった。後になってわかったが、中田は第2戦で左手第5中手指を骨折していた。

2012年の日本シリーズ第6戦で同点3ランを放った中田翔 ©文藝春秋

 僕は同点ホームランに叫んで泣いていた。ファイターズがホームチームでなくなって、本当に初めて泣いた。今年で今日で終わるわけじゃない。来年もあるんだ。自分は変わらなくていいんだ。だって未来がある。希望がある。

 結局のところ中田の同点ホームランは実を結ばず、ファイターズは2012年日本シリーズに敗れてしまった。僕らの4番打者は、その後、毎年毎月毎試合、ファンの勝手な期待を背に受け、応えたり応えられなかったりを繰り返している。

 僕はというと今も自由席にいる。ずっと好きなことをやっている。あの日の光景が忘れられない。落下点から数メートル。たった今、目をつぶったってありありと思い描ける。

僕らの4番打者 ©文藝春秋

 「ホームラン待ち」

 中田翔がホームラン打ってくれるなら
 僕は機嫌よく一杯おごるよ
 先制の2ランでハイタッチができたら
 僕は嬉しくて今夜は帰らない

 中田翔がホームラン打ってくれるなら
 僕は失恋ショックも忘れちまうよ
 逆転の3ランでバンザイできたら
 僕は嬉しくて今夜飲み明かす

 天高く高く
 高く 飛んでゆけ
 この世の悲しみを越えてゆけ
 人生がもしも困難なものだとしたら
 中田翔のホームラン待ち
 中田翔のホームラン待ち

 中田翔がホームラン打ってくれるなら
 僕は全員に一杯おごるよ
 サヨナラホームランで飛び跳ねられたら
 僕は嬉しくてやり直せるはずさ

 天高く高く
 高く 飛んでゆけ
 この世の悲しみを越えてゆけ
 人生がたまに好転する時には
 中田翔のホームラン出た
 中田翔のホームラン出た
 中田翔のホームラン出た
 中田翔のホームラン出た

(作詞えのきどいちろう、作曲石村吹雪)


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