いつか来る「恩返し」の瞬間に向けて
昨シーズン終盤の原樹理は実にたくましかった。あるインタビューでは、「後半戦は常に勝てる気がした」という、「らしくない」強気の発言まで見られた。この発言について本人に聞いたことがある。
「僕も、“何でこんなこと発言しちゃったんだろう?”って思うくらいなんで、“気づいたら言ってしまってたのかな?”と思います。絶対普段だったら言わないんです。いつもは、“そういうことを言って、しっぺ返しがきて負けたらイヤだな”と思いながらしゃべったりするので、“ちょっと控え目に、あんまり大きなことは言わずに”って感じなんですけど、あのときは言ってしまいました。何でなんですかね? やっぱり本当に思っていたからなんですかね?」
この発言を聞いたとき、僕は嬉しかった。「ついに彼は自信をつかんだのだ」と感じたからだ。そして、今年もつい先日、「凄み」を感じさせるピッチングを見せた。6月2日の対横浜DeNAベイスターズ戦。チームはリーグワーストタイ記録となる16連敗の真っ只中で、彼は中4日で先発し、7回途中まで投げて1失点。チームに3週間ぶりの勝利をもたらした。この日の原樹理はたくましかった。「中4日」であっても、疲れを感じさせない堂々たるピッチングは、まさに将来のエースの風格たっぷりだった。
そして、今回の福島・郡山でのピッチング。3点は失ったものの、試合は作った。しかし、チームは負けた。QSを達成すれば、先発投手として合格点を与えられるということは重々承知しているけれど、スタンドから見ていて、この日の彼のピッチングに、僕は「凄み」は感じなかった。高いポテンシャルを持つ原樹理だからこそ、ファンは、少なくとも僕は、彼にはもっと高いレベルを求めたい。そして、その思いは楽天ベンチから戦況を見守っていた伊藤智仁も同様だったはずだ。伊藤の言葉を改めて思い出す。
「原樹理には日本を代表するエースになってもらいたいし、そうなれるポテンシャルを秘めている。彼に必要なのは自信だけ」
この日の登板では、かつての師に恩返しをすることはできなかった。「直接対決」となる次の楽天との交流戦登板は、来季以降に持ち越された。立場上、表立って声明することははばかられるかもしれないが、伊藤智仁が今でも原樹理のことを気にかけていることを、僕は知っている。一度結ばれた師弟関係はいつまでも続く。いつか、「今日の原樹理は完璧だった。脱帽だよ」と、伊藤に言わせるようなピッチングをぜひ見たい。それが、尊敬する師匠に対して、弟子である原樹理に課せられた使命なのだ。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム ペナントレース2019」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/12164 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。