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思考は実現する――勝てなかった中日・大野雄大を変えた言葉たち

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/06/18
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大野雄に言葉をかけた「同じ苗字で同じ左」の大先輩

 大野雄は先発の役割を果たしていく。5月7日の広島戦では2年ぶりの完封勝利を挙げた。

「前日に(鈴木)博志がやられて、試合前の空気が重かったので、『今日は1人で投げ切ろう。思考は実現する』と暗示してマウンドに上がりました。あの日は心と体が一致しました」

 9回3安打13奪三振。圧巻だった。

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「あの完封で周りの期待は高まりました。自分もやれると思いました。だから、初めて勝ちたいと思ったんです」

 好事魔多し。5月15日のDeNA戦に先発した大野雄は2対1と1点ビハインドの6回裏、先頭のロペスに2塁打を食らう。

「次の中井(大介)。あそこが分岐点でした。今、思えば、ストライクゾーンで勝負してタイムリーを打たれても、3対1。試合は作れているし、横浜スタジアムで2点差ならチャンスはある。でも、コースを突いてうまく打ち取ろうと思ったんです。結局、フォアボール。大和さんのヒットで満塁。1点を惜しんで大量失点という最悪の展開でした」

 次の伊藤光が放った打球はレフトスタンドに消えた。

「ベンチですぐに反省しました。答えは欲です。勝ちたい気持ちが強すぎました」

 信念に欲がまとわりつくと、邪念になる。

「もう1回、試合を作ることに集中しました。三次の広島戦も負けましたが、仕事は果たせましたし、(5月29日の)DeNA戦も8回1失点。方向性は間違っていないと再確認できました」

 しかし、ヤフオクドームのソフトバンク戦で浴びた4発が再び大野雄を突き落した。

「隙があるんじゃないか。それが何なのかは自分で考えなさい」

 4敗目を喫した翌日、グラウンドで背番号22に声をかける人物がいた。

「血縁関係は全くありません。同じ苗字で同じ左という理由だけですが、よくアドバイスを頂いています」

 広島黄金時代を支えた大野豊氏だった。

「それでホームランを打たれた球種を調べたんです。すると、12本中7本がストレート、5本がスライダーでした。ツーシームやチェンジアップはゼロ。次はストレートとスライダーを投げる際に細心の注意を払おうと思ったんです」

 6月12日の京セラドーム大阪のオリックス戦。大野雄は7回2失点。ツーシームを巧みに使い、被弾することなく、4勝目を挙げた。様々な人の言葉が今年の大野雄を変えている。

「そう言えば、自然と5キロほど痩せましたね」

 酒を断ち、無駄な肉は削ぎ落とされた。ふと顔を覗かせる「欲」も封印し、競り負ける根源の「隙」も排除した。そして、立ち返る場所は常に「試合を作る」という信念だ。

「お酒ですか? ビールかけで解禁したいですね」

 思考はきっと実現する。

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