「知らないことが多くて勿体ない選手がたくさんいる」
そしてもう一人、富山には乾真大投手がいる。2010年ドラフト3位でファイターズに入団、2016年にトレードでジャイアンツへ。昨年からサンダーバーズに所属し、今年は二岡監督からの要望でコーチも兼任している。よく日に焼けた乾投手の表情はとても明るかった。NPB復帰を目指す彼からこんな言葉が聞けた。
「今は上手くなる気しかしないんです」
NPBを離れてからは、練習でも試合でも自分で考えることが増えた。自分で必死に頭を使わないと前に進めない。実際、久しぶりに乾投手のピッチングを見た二岡監督が「どうした?」と聞くぐらいレベルが上がっている、それを自分自身でも感じているという。因みに乾投手のおにぎりナンバー3は、こんぶ・梅・鮭です。
NPB復帰を乾投手が口にするように、二岡監督も一番に重きを置いているのは人材育成。NPBにどれだけ選手を送り込むことが出来るか。
「最初の頃は、試合後のミーティングで私が指摘やアドバイスをすると怒られているという雰囲気に選手たちがなっていた」
それは容易に想像が出来る。だって目の前に「二岡智宏」さんですから。でも、それではいけないと自分から声をかけて外国人選手も含め全員と個別に食事に行き、直にコミュニケーションを取ったそうだ。今ではもうすっかり壁はなくなり、監督の部屋に選手が野球談議にくることだってあるという。
「知らないことが多くて勿体ない選手がたくさんいる」
この言葉は選手だけじゃなく、応援している人たちにも響く。
富山主催のゲームではスタメン発表の時に、ジグソーの「スカイ・ハイ」が流れる。二岡選手の登場曲が、いまはこんな形で北陸で鳴り響いている。今年もドラフトが近づいている。去年はサンダーバーズから湯浅京己投手がタイガース6巡目、海老原一佳選手がファイターズの育成1巡目で指名された。「スカイ・ハイ」に送られてNPBの門をくぐる選手は誰なのか、楽しみだ。
同じ野球でも環境は様々。基本、どこで試合があっても日帰り。自分たちのことは自分たちで。食事も自ら調達し、ユニフォームの洗濯も自分、選手の多くは生活の為にオフには別の職業に就く、それがBCリーグ。学生の頃から恵まれた環境を当たり前に過ごして来た人にとってはどうなのかと心配してしまう。
大変ですよね? 問う私に二岡監督は少し笑って「まー、そうだねー」と答えた。
でも、それよりも野球が好きの思いの方が勝っちゃうんですか? 続けて問う私に、二岡監督は今まで会った中で一番の少年の顔をした。くしゃくしゃっと青空の下で笑ったあの表情をきっと私はずっと忘れない。
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