混戦パ・リーグを抜け出し、今年こそリーグ優勝を奪還するために必死で戦い続けるホークス。中継ぎ陣の連投も惜しまず、勝ちパターンに持ち込み、痺れるような試合をものにして終盤戦を駆け抜けています。チーム一丸となって1つの目標へ向けてのラストスパートです!

 一方で、時を同じくしてファーム本拠地のある筑後では2軍、3軍、リハビリ組の選手たちが様々な思いを巡らせながら汗を流していました。チーム全体として目指すところは1つかもしれませんが、彼らはそれ以上に自分自身、目の前の現実と戦っています。優勝することができても、チームが優勝した喜びよりも自身がその場にいられなかった悔しさの方が大きいはずです。毎年、歓喜の輪の裏側には違う涙を呑んでいる人がいるのです。

状態が上がらず苦しむ昨季のセットアッパー

「正直、しんどいですよ」

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 素直な思いを吐露してくれたのは昨シーズンの“勝ちパターン”セットアッパーの加治屋蓮投手。ホークスの先輩、岩嵜翔投手が保持していたシーズン最多登板記録の72試合に並び、4勝、31ホールドとフル回転した昨年とはまるで違うシーズンを送っています。

 今シーズンは開幕1軍こそ掴んだものの、開幕戦でいきなりライオンズの山川選手に同点満塁ホームランを浴びるなど安定感を欠いてしまい必勝リレーの中から脱落。ビハインドの場面のロングリリーフなどで時折マウンドに上がるようになり、そして1軍と2軍を行ったり来たり。昨季とは置かれた立場が大きく変わってしまいました。

 たった1年でこんなにも立場が変わってしまうのかとプロ野球界の厳しさを感じます。しかも、自身が任されていた“勝利の方程式”は、ずっと年下のルーキー甲斐野投手や4年目の高橋純平投手ら同じ“ドラ1右腕”が投げて結果も出しました。甲斐野投手はセットアッパーとして台頭し、球団の大卒新人最多登板記録を打ち立てる快投っぷりで、森投手の離脱時には代役守護神も務めるなど奮闘。自分もブルペンにいるのに、“勝っている時に行けないもどかしさ”を感じたそうです。

昨季とは置かれた立場が大きく変わった加治屋蓮

 前年まで1軍登板わずか4試合だった立場から72試合も投げる大躍進で、「野球ってこんなに楽しいんだ」と思えた昨季。一方、試合に出たくても出られない今季……。

 考えただけでも心が折れそうになる現実ですが、加治屋投手は「しんどい」とは言いながらも、下を見ることなく常に向上心を持って進化を求める日々を過ごしています。

「今年は今年、来年は来年。ある意味、切り替えやすいと思うんです……いや、切り替えなきゃいけないんです」

 毎年毎年、チームの置かれた状況も自分自身の身体の状態も違います。去年やれたことを全く同じようにやれるわけではないのが現実です。思えば、加治屋投手も“穴を埋めて”セットアッパーの座をつかみ取りました。その前年は岩嵜投手が不動の地位を築いていましたが、2度の手術を受けて投げることが出来なくなったためでした。

 加治屋投手はあれだけの登板数を重ねて過ごすオフが、もちろん初めてでした。肩肘の疲労も当然あった中、どれだけ休ませたらいいのか、どれくらい使っていいものなのか探り探りのオフだったといいます。そして、春先からなかなか状態が上がらないままシーズンが始まりました。開幕1軍ながら5月に登録抹消。再び6月に昇格するも8月13日に抹消され、今も2軍調整の日々です。1軍では29試合の登板にとどまっています。

 課題は「真っすぐをしっかり狙った方向に投げること」。昨季は指先にかかって体重がしっかり乗る感じのリリースが出来ていたそうなのですが、今季はそこが納得のいく姿ではありません。そのため、気持ちの面でも弱気になってしまうことがあり、それが結果にも反映されてしまいました。