9月の過ごし方を私たちは何通り知っているんだろう。優勝へと驀進する9月。“なんとかCSをホームで!”とこぶしを握る9月。“そうか3位か、よし、だったら下剋上だ!”の9月。“お願い、最下位だけはどうにか……”と祈る9月。“ああ、もう無事にシーズンが終わってくれればただそれだけで……”と身を寄せ合う9月……。私たちはいろいろな9月を知っている。そして、そのどんな9月でも寄り添ってくれるのが「杉谷拳士」なんだ、と私は思う。

いつもがむしゃらなムードメーカー

「いつだって出たい出たいと思ってます。出来れば固定された所で試合の頭から出たい。やっぱりそれが本音ですよ」

 杉谷選手にインタビューするといつもこのフレーズに行きつく。そしてこう続く。

ADVERTISEMENT

「だけど今の僕の立場は与えられたところで仕事をすること。いろいろな場面で使ってくれる監督の気持ちに応えたい」

 スイッチヒッターで内外野どこでも守ることが出来る。ユーティリティプレーヤーの杉谷選手はチームにとっては常にベンチにいてもらいたい貴重な存在であり、その出番は試合途中からが多くなる。いつ呼ばれるかわからない上に、その時どきで彼の場合は求められるパターンが異なる。代打であれば、“どかんと一発!”がほしい時もあれば、流れでチャンスメイクの場合も、手堅くバントを成功させてほしいシーンもある。代走で出ればその後の守備も様々でバッテリー以外はどこだって守る準備は出来ている。練習はスタメンだろうと途中からだろうと何も変わらない。11年目の今でもかなり早くに球場に姿を現す。誰にでも笑顔で大きな声で挨拶をする、それもずっと変わらない。

常にベンチにいてもらいたい貴重な存在の杉谷拳士

 名門、帝京高校から入団テストを経てのドラフト6位指名。2009年、ルーキーイヤーの沖縄2軍キャンプ、国頭。同期の中島選手と一緒に居残りで、当時の三木肇コーチからノックを受けていた姿を今でも思い出すことがある。見学のファンもすっかり帰ってしまった夕暮れ間近のグラウンドで必死にボールを追いかける杉谷選手は、まだまだ細くてボールも逸らしてばかりだった。それでもどんなに失敗しても声は小さくならない。三木コーチへの「お願いします!」が広いグラウンドに何度も響いた。「がむしゃら」ってこういうことなんだなと思った。どんなにキャリアを積んでもこの言葉が杉谷選手には似合う。

 彼にはもうひとつ重要な役割がある。「ムードメーカー」というポジション。意外なことにそれについては、自分では意識したことはないという。野球を楽しんで好きなようにふるまっているだけ。なんてうらやましい才能なんだろう。この明るい性格は、先輩にも後輩にも外国人選手にだってよく好かれる。監督も杉谷選手が大好きだ。

「だったらもっと出してくれてもいいんですけど(笑)」

 いつだったか、それをそのまま監督に話したら、「かわいいからそばにおいておきたいんだよ」と監督も笑った。