ソフトバンクとの優勝争いが激化するなか、西武の番記者たちには片時も忘れられない問題がある。今年海外FA権を取得した、秋山翔吾の去就だ。
来季のメジャーリーグ挑戦が濃厚と見られてきたが、ここに来て「ブラフ説」も浮上している。筆者も「向上心の高い秋山だけにメジャーへの道を求めるだろう」と思いつつ、西武残留もあるかもしれないという考えが頭の隅にある。度々、チームの長期的強化について語ることがあったからだ。
「引き継ぎたい」という“意味深な”発言の真意は?
それだけに9月15日のロッテ戦で「ひとり親家庭の親子」をメットライフドームに招待して交流会を実施した後、報道陣への囲み取材で連発した“意味深な”言葉には驚かされた。
「残り10試合、気持ちも入っている試合になると思うので、それを楽しんで見ていってくださいと話しました。“最後の勇姿”を」
「招待したみなさんの喜んでいる姿を見ると、この会をやっているかいがあると思います。それが“最後”になってしまうのは、ちょっと寂しいなと思いますけど」
「本当は(8月8日に)大宮で行なったときに金子(侑司)とやるつもりでした(金子は8月2日に登録抹消)。今日くらい金子を巻き込もうと思ったら、まったく間の悪いヤツで、うまく“引き継ぎ”ができなかったですけどね(苦笑)」
今年最後の機会という意味か、あるいは今季限りで西武を去るのか――。
優勝マジック9を点灯させた9月15日のロッテ戦後、チャンスでの凡退、守備での後逸など招待したファンの前でいいところを見せられず、厳しい顔でメットライフドームの駐車場に現れた秋山を呼び止めた。「引き継ぎたい」という言葉の真意は?
すると、ニヤリと笑みを見せた。
「引き継ぐというより、一緒にやりたいというか。僕が(来年チームに)いる、いないは別にして、こういう取り組みをやる選手の人数が増えていくのは、球団にとってもいいことだと思うんですよ。僕がやらない日に金子がやってくれてもいいし、最初は一緒にやって、バラしていくのもありだと思う。いきなり一人でやるのは、勝手がわからないと難しいので。こういう活動はレギュラーになっていく選手でないとなかなかできないので、いろんな選手ができればいいと思います」
メディアを通じて秋山の個性的なキャラクターはよく知られるが、もちろん異なる一面もある。その一つが「かまってちゃん」だ。だからこそ“意味深な”発言を頻繁にするのだろう。同時に「金子と一緒にやりたい」という言葉から、寂しがり屋、面倒見の良さも垣間見られた。
「ひとり親家庭の親子」の招待を始めたきっかけ
小学6年時に父親を胃ガンで亡くした秋山は、2015年から「ひとり親家庭の親子」を球場に招待してきた。きっかけは、球団からの提案だった。
「選手から『ひとり親の家庭を招待したいです』と言い出すのは、なかなか難しいところもあります。僕以外というか、何も障害がなかった選手はなかなかできないじゃないですか。できないことはないけど、そういう団体を見つけるのが大変。気持ちのわかる人がやるのが、本当はいいと思います」
人は背中を押されて一歩踏み出すと、自ら二歩、三歩と進んでいくものだ。
秋山は2015年にシーズン最多安打記録を樹立した後のオフ(2016年1月)、日本サッカー協会が日本プロ野球選手会と取り組みを始めた「夢の教室」で埼玉県坂戸市の上谷小学校を訪れた。いわゆる「ユメセン」として知られ、秋山は23人の小学5 年生に簡単な野球教室、そして夢を持つ大切さについて授業を行なった。
上谷小ではサッカーが盛んで、秋山の担当したクラスで野球をしている子は一人もいなかった。子どもの野球離れは確実に進んでおり、秋山は何とか歯止めをかけたいと考えている。
「ひとり親家庭の招待で来てくれた中にも、『秋山選手が企画してくださったおかげで野球を始めました』という子がいました。極論を言えば、そうなってくれれば一番いいと思います」
子どもの野球離れには様々な理由があるが、大きな要因の一つとして「野球はカネがかかる」が挙げられる。用具代や遠征費などだ。
日本全国でひとり親世帯が増えるなか、母子世帯や父子世帯の平均年収は一般世帯より少ない。こうした事情を踏まえ、秋山は「ひとり親の子たちに対し、野球をやってもらうための支援の一環という考え方はちょっと難しいところもある」と語る(子どもの野球離れについて詳しく知りたい人は、拙著『野球消滅』を参照ください)。
テレビの地上波中継というタッチポイントがほぼ失われ、同時に公園でボール遊びをするのが難しくなり、子どもが野球を始めるのはなかなかハードルが高い。対してファンのコア化、高齢化が同時に進んでおり、数十年後、野球ファンの空洞化が起きるという懸念もある。