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球団は選手をもっと利用すればいい

 クラスに野球少年が一人もいないという厳しい現実を目の当たりにした秋山は、自ら行動に出た。夢先生を担当した上谷小学校のクラス全員に、「チケットを用意するのでメットライフドームに見に来ませんか」と自費で招待したのだ。

「野球少年に野球教室をやるより裾野が広がると思います。『チケットがあるなら行ってみようか』ってなるじゃないですか。そこで楽しめたら、先生が『授業でやってみようか』となるかもしれない。何でもゼロからイチにするのが難しいので、まずはきっかけを渡せたらと思っています」

 2007年から2016年にかけて、小・中学生の野球人口は66万3560人から48万9648人と26.2%減少(出典:全日本野球協会)。対して同期間のサッカー少年は51万8808人から54万9962人と6%の増加だった(出典:日本サッカー協会)。少子化の6倍のペースで野球少年は減少している。

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 西武をはじめ、多くの球団が子どもの野球離れに危機感を抱き、野球の普及振興活動を実施しているなか、最たる“看板”になるのは選手だ。秋山はそう自覚するからこそ、球団は選手をもっと利用すればいいと言う。

「例えば小学5年生に対してユメセンを行なった選手に、『あの子たちは今年6年生で卒業するので、思い出づくりで球場に行きたいという話が先生から出ています。招待しませんか』と球団が聞けば、選手は『もう1回会いたいですね』と言うかもしれない。そうやって球団がある程度理由を固めてくれれば、選手はやりやすくなります。例えば『秋山選手はこういうことをやりました』と写真を引っ張り出してきたら、『僕もやろうかな』となるかもしれない」

空席をなんとか埋めるため……秋山のアイディアとは

 今季の主催試合で観客動員の新記録を達成した西武だが、平日には空席もたくさんある。そんな日、例えば所沢や狭山、川越など近隣の小・中学生に対し、「チケットは球団が用意するから、見にきませんか。交通費はかかってしまいますが、それでもよければ」と誘えば、スタンドの空席が減ることはもちろん、来場した少年・少女は西武ファン、野球ファンになっていくかもしれない。

 実は、これは秋山のアイディアだ。こうした発想を持っている選手が他にもいるが、球団はしっかりコミュニケーションを取れているだろうか。

「どこの地域でもこういう(ひとり親の)人はいると思うので、現役を続ける限りやりたい」という秋山 ©中島大輔

 チームが優勝争いを繰り広げる9月13日(金)、ロッテ戦の観衆は2万3314人だった。満員まで1万人近く余裕があるメットライフドームでヒーローインタビューに呼ばれた秋山は、ファンへのメッセージを求められるとこう話している。

「明日からの3連戦は客席が埋まると思いますけど、今日はまだ空席がありましたので、寂しさを感じています」

 来場したファンは秋山流のシニカルな物言いに失笑したかもしれないが、観衆を見据える視線の先には、球団があったのではないだろうか。今季の西武はチームが奮闘し、ファンの熱い応援に支えられて観客動員は増えたが、ソフトバンクやセ・リーグには遠く及ばない。まだまだやれることがたくさんある。

 自らの去就について「(来年チームに)いる、いないは別にして」など“意味深な”発言を繰り返す秋山には、西武、そして日本球界に残したいものが確かにある――。

 その真意が、少しでも多くの人に届くことを願うばかりだ。

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