急速に育まれた筒香のリーダーシップ
「横浜が優勝するために、チームの課題は何?」
「本当はもっと高い緊張感で練習した方がいいし、そもそも、もっと量をこなさなきゃいけない選手がたくさんいる」
「それ、見て見ぬ振りしてるのは、誰?」
「そうですね。僕ですね」
筒香のリーダーシップは、急速に育まれていった。チームメイトに高いレベルを要求し、言動に違和感を覚えたら、それが先輩でも躊躇なく指摘するようになった。「こう言いたいんですけど、どう伝えたらいいですか?」という相談も多くなった。2人で会話をしていても、自分の話はほとんどしない。石田、今永、山崎康、戸柱、梶谷、乙坂、柴田……。彼らの悪いところの話は一切出てこない。彼らの可能性、素晴らしさを、どうやったら拡大できるのか。どうやったら、「優勝する」という方向に向けられるのか。主語が、「私」から、「チーム」、「横浜」と範囲が拡大するに伴って、周囲を巻き込む力が強くなっていく。最近、公の場で発言する際の主語は、「将来の日本の子供たち」だ。
リーダーシップとは、主語の範囲の拡大と、強い要求のことであると、筒香の成長を見て思う。しかも、本人が誰よりも本気だからこそ、強い要求を相手は受け入れる。2019年現在、横浜を「弱いチーム」と言う人はいない。私が在籍した6年間は、最下位が5回。誰がどう考えても「弱いチーム」だった横浜を、短期間で「強いチーム」にした筒香の功績は、余りあるほど大きい。
筒香の真の価値は、チームを強くできること
9月11日、7点差を逆転して勝ったカープ戦の後、代打満塁弾を放った梶谷に電話をした。
「誰一人、優勝を諦めていない」
と、梶谷は言った。残り6試合で、ジャイアンツとは3ゲーム差。マジック4。優勝の可能性が限りなく低いことは、誰の目にも明らか。それでも、横浜は諦めていなかった。
8月の終わりに筒香と食事に行った際、会話は全てチームの話だった。自身の成績が思わしくないことについて、オフにアメリカ行きを決断するのかについてなど、話すことはたくさんあった。それでも、興奮しながら話していたのは、チームのことだけだった。
「今、チームはこれまでに見たことないくらい一致団結してます。すごい雰囲気です。全員が優勝の方に向いています」
3年前、「奇跡」だと言っていたことは、現実にはならなかった。しかし、それに限りなく近いことは、起こった。筒香は言葉通り、「チームを強くできる4番」になった。
確かに、現在の成績でメジャーリーグに挑戦することに不安を感じる人はいるだろう。個人の成績が評価されるプロの世界において、それは言い訳のしようがない事実である。しかし、筒香の本当の価値はそれだけではない。この3年間で、「チームを強くする選手」になった。それは、ただ単純にいい選手という枠を超えた価値である。その価値が、アメリカで発揮されるかどうかはわからない。ただ、筒香の好奇心と順応スピードは、アメリカでこそ開花するはずだ。日本を代表する選手として胸を張って挑戦できるように、我々ファンも、大声援で送り出したいと思う。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム クライマックス・シリーズ2019」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/14434 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。