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その足で、その守備で……絶体絶命の西武に金子侑司が必要不可欠な理由

文春野球コラム クライマックス・シリーズ2019

2019/10/13

 昨シーズンが終わる前から、2019年シーズンは金子侑司選手に注目しようと決めていた。111試合出場、うち93試合で先発起用されながらも、キャリア最低の打率.223に終わり、忸怩たる2018シーズンを過ごした。契約更改の際は、アップ提示にも関わらず、「自分を応援してくれたり、信じてくれていた人たちを散々裏切ってがっかりさせてしまい、そんな自分に、自分が一番がっかりました。数え切れないくらい自分を嫌いになりそうになった」と、笑顔なき会見。その苦悩をバネに、どのような形でリベンジを果たすか。非常に期待していたのだ。

優勝した中で取った『盗塁王』の価値

 自分を嫌いにならないために、金子選手が自らに課した目標が「優勝して、盗塁王をとって、(打順)1番を打つ」だった。言葉通り、オープン戦から結果を出し、開幕は1番打者としてまっさらなヤフオクドームのバッターボックスに立った。「このまま1番に定着してほしい」と、切に願っていたが、5月に入り、打撃状態が悪化。逆に、昨季まで不動の1番打者として安打を量産し続けた秋山翔吾選手が状態を上げたこともあり、同17日からは完全に背番号55が1番に入ることとなった。「4月はなんとか立て直せたのに、5月だけがすごいダメだった。そこで1番も外れてしまいました。ただ、自分なりにどうにかしようとした結果、ならなかったので、そこは『自分が打てなかっただけ』と、しっかりと受け止めています」。『シーズン通して1番打者定着』の目標は、来年へと持ち越しとなった。

 一方で、残り2つの目標『優勝』と『盗塁王』は見事に果たした。特筆すべきは後者だ。

 2016年に53盗塁で同タイトルを獲得している金子選手は、はじめ「50」という数字を今年の目標に掲げていた。だが、佐藤友亮外野守備・走塁コーチは、あえてそこを指摘。「まずはタイトルを取ろうよ」と、2人でしっかりと話した結果、ターゲットを変更した。その意図を、同コーチは次のように説明する。

「個数にこだわると、意味のない盗塁をしなければいけなくなります。まして50個となると、無理をしなければいけない数字。それがチームに良い影響を及ぼすとは思えなかったので」。

 2016年、ライオンズは4位に終わった。優勝争い、CS出場争いから脱落したチーム状況の中では、個人タイトルを後押しするために、積極的にチャレンジを容認することも可能だったりもする。毎年、盗塁王が優勝チームから出ていないのも、そうした経緯が1つあるからだ。終盤、1番打者として金子選手が起用されたことも、まさにそうした考慮からだった。

 だが、今年は当時とは状況がまったく違った。昨季優勝し、チームは2連覇を目指していた。そのためには、今まで以上に質の高い盗塁が必要とされる。「個数ではなく、内容を重視していこう」。佐藤コーチの言葉は、スピードスターの胸にしっかりと刻まれた。

 結果として、41個で最多盗塁数となった。「数自体は少し物足りないですが、優勝した中で取れたという意味では、前回よりも胸を張っていいのかなと思います」と本人は充実の表情で話したが、佐藤コーチは、さらに今回のタイトルの価値を高く評価する。「一度タイトルを取っている選手の宿命でもありますし、まして、それが優勝争いしているチームの選手。他チームからの金子への警戒は、他の選手へのそれとは全然違います。それぐらいマークが厳しい中で、1つでも走るのが難しいにもかかわらず、常に行く気持ちがあるし、勇気を持ってスタートする。で、実際に成功させるからすごいと思います。しかも、打席が回ってくる回数が少ない9番でのタイトルですからね」。

今季、41盗塁で2度目の盗塁王に輝いた金子侑司 ©時事通信社

「自分がなりたいと思った外野手像にちょっとずつ近づいてはきている」

 プロとして、選手に求めるレベルが高い佐藤コーチは、これまで取材をしてきた中でも決してお世辞などで選手を褒めたことがない。そのコーチが、今季の金子選手の活躍に関しては賛辞を惜しまないのである。就任時から、選手たちには「盗塁というのは、走ることが全てではない」と説き続けてきた。「走るぞ、走るぞ!と見せかけて走らないのも、足が速い選手の特長の1つ。それで配球を変えるのも大事な“盗塁”です。その意味では、今年の金子は、人のために走らなかったこともあるし、調子が悪い選手がいたら、『まっすぐを絞らせるから、(走るのを)我慢しなさいよ』と諭して、打たせてあげることもあった。価値ある“スタートを切らない”判断もたくさんありました。感情の起伏もなくなってきたし、人間的な成長が、何よりも大きいと思います」。

「それが、外野守備にも生きている」と、同コーチは続けた。

 それを聞いた瞬間、すべて合点がいった。というのも、盗塁もそうだが、それ以上に、今年は金子選手といえば、その外野守備に何度も何度も魅せられたからである。左翼手ながら、その守備範囲の広さ、落下地点入るまでのスピードなどは、「全盛期の田口(壮)さんよりもすごいんじゃないですかね(佐藤コーチ)」。まさに。盗塁の質を求め、スタートを切る、切らないの判断力を研ぎ澄ませたことが、打球に対して行くべきか行かないべきかの判断力にも好影響を与えた。

 攻撃面では、「始まる前になりたかった自分とはかけ離れている」と表現した金子選手自身も、“外野手”としては、「やっと、自分がなりたいと思った外野手像にちょっとずつ近づいてはきている」と、手応えを実感できているという。

“なりたい外野手像”とは、「まずは、誰よりも守備範囲が広いこと」と、ライオンズのプリンス。その上で、内野手からコンバートし4年目(正式な登録変更は2017年)を迎えた外野手としてのこだわりを聞かせてくれた。

「打球に対して、外野手が『(捕れるか)どうかな?』と思うだけで突っ込むのは勇気がいることです。もし逸らしてしまったら、後ろには誰もいないので、当然長打になりますから。でも逆に、そういう打球が捕れた時には、すごく助けになると思います。だからこそ、そこの判断をすごく大事にしています。

 ベンチも含めて、捕手、投手のバッテリーが一生懸命抑えようとして投げてくれているので、そこで、『突っ込んで欲しかった』とか、『ネコさんやったら行けたかもしれないのに』って思われないように守ろうということを常に考えてやっています。『ネコさんがトライしてくれて、ダメだったんだからしょうがないわ』と思われるような守備を常にして、がっかりさせることだけはないようにしたい。むやみに行くのではなくて、本当に取れると思って行って捕れなかったら、あとは全力で謝るだけです(笑)」。

 そんな、バッテリーとチームへの想いが詰まった全力守備に、どれだけ救われただろうか。その大ファインプレーが攻撃に勢いをもたらせ、勝利を呼び込んだだろうか。結果、阻止した失点数は、ある意味、打点数同様の価値があるとも言っていいだろう。

 あれほどの華麗な守備。格別な表現で賞賛したいのだが、申し訳ない。筆者のボキャブラリーの乏しさゆえ、ただただ、「素晴らしい」としか出てこない。だが、とにかく素晴らしかった! 数え切れないほど魅了された。